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フジテレビ記者会見におけるジャーナリズムの敗北

10時間を超える二度目の記者会見は、ジャーナリズムの敗北だった。フジテレビは一回目の密室記者会見ですでに敗北しているのだから、今回の記者会見ではこれ以上、失うものはない。ところが、前回は密室であったがゆえにその不甲斐なさが表沙汰にならなかったジャーナリスト側のおそまつさが、今回はっきりと示された。

もっとも大きな誤算は、今回の直接の原因となった加害者と被害者のふたりだけの会食について、プロデューサーのA氏の関与していなかった可能性が高い点だろう。たしかに被害者のXさんに確認を取らなければ、本当にA氏の関与がなかったかどうかわからないが、第三者委員会が入るとわかっているこのタイミングで、A氏の嘘を真に受ける経営陣ではないだろう。実は、二人だけの会食は中居の単独犯であるというのが私の見立てだ。

「組織的な性上納システムが存在する」という筋書きを文春が書き、多くのジャーナリストがそれを信じて、そのことを前提に質問が繰り返されたが、まずA氏の個人的なやりくちである可能性が高いとは思っていた。さすがに組織的にやるにはリスクが高すぎるだろう。組織的関与を問い詰めるのであれば、かなり周到な準備が必要だ。

例を出せば、たとえばリクルーターを務める若手社員が入社希望の学生たちに性加害する案件は、事件として表沙汰になったものだけでも多数ある。しかし、だからといってそれが組織的犯行とはならない。たしかに、権力勾配のあるなかで、リクルーターと学生とが直接やりとりする状況をつくった責任は、企業にある。しかし、それをもって企業が犯罪の幇助をしたとまではいえないだろう。

そのうえで、さらにA氏が「当日」の関与を否定しているのは、嘘ではない可能性もある。もし当日の会への直接的な関与がないのにA氏の責任を問おうとすると、これはかなり面倒な手続きが必要になる。被害者のXさんは、その前のバーベキューの延長で当日の会が行われるのだと認識していた。このことでA氏の責任を問おうとすると、そのバーベキューと、その後の寿司屋での電話番号交換やりとりの時点で、A氏が「性上納」を画策していたという話にならなければならない。これはかなり飛躍がある(可能性は否定できないが)。

そして、話は繰り返しになるが、仮にそうした入り組んだA氏の犯行を立証したとしても、これを組織的関与にまでもっていくのには、相当な距離がある。「組織的性上納システム」ストーリーに乗っかって問い詰めたジャーナリストが空振りしたのは、こうした構造があるからだ。

ではどうすればよかったのか。ポイントはやはり、『だれかTOなかい』の継続問題だろう。それを被害者女性の気持ちを考えて穏便に、といっても誰も納得しないだろう。加害者がTVで活躍し続ける姿を見て、どれほどショックを受けたか。しかもそれが自分の所属していた会社の判断なのだ。社員を守るべき組織のこの裏切りにこそ、この事案の組織的問題の本質があるのだ。

最後になってしまったが、被害者のXさんの傷が一日でも早く癒えることを心より願っています。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
日本ビジネスモデル学会 BMAジャーナル編集長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師

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