あらたなコンセプトは”WA(和)"nnovation
BMIA常務理事 山本伸
「イノベーションが次々と生まれる組織風土のつくりかた」ワークショップ開催報告
日付: 2023年10月14日 10:00〜18:00
会場: ビジョンセンター品川
講師:ハイス・ファン・ウルフェン(Gijs van Wulfen)、『ハイブリッド・イノベーション』原著者のみなさん
逐次通訳、サポート:山本伸、西村祐哉
1. 一歩踏み出すのが難しいあなたへ
イノベーションを推進する際、その初期段階における不確実性を低減するのは容易なことではありません。新しいアイデアや取り組みがどれだけ市場で成功するかの予測は、数多くの変数に影響されるためです。しかし、イノベーションの手法選びによって、その成功確率を高めることは十分可能です。
一般的なステージゲート法においては、イノベーションの成功確率は約1/3とされています。それに対し、FORTH Innovation Methodという手法を適用すると、この確率は約3/4と、約2倍に上昇することが研究で明らかにされています(1)。
成功への道を切り拓くための適切な手法の選択は、イノベーションの成果を大きく左右します。
2. 「組織のサイロ化とリスクの重圧」という課題
大企業や組織のなかでのイノベーションを推進する際、多くのプロフェッショナルが共通の壁や課題に直面しています。
まず、多くの場合、新しいアイデアや提案を上司に持ち込んでも「Yes」という返答を得られることは難しいものです。これは、組織の既存の戦略が不明瞭であるか、あるいは新しいアイデアがその戦略と合致しないと感じられるためです。
加えて、市場の変化や顧客のニーズを正確に捉えるのは容易ではありません。この結果、新しいサービスや製品の開発スピードが遅れ、競合他社におくれをとることも。
そして、大企業特有のリスク回避の文化が、新しい取り組みを進めることの最大の障壁となることも少なくありません。これらの共通の悩みや障壁は、イノベーションを追求する全ての人にとっての大きな課題となっています。
3. 組織風土の変革に挑む22人の一日
障壁や課題を乗り越えるため、新規事業の成功確率を高めるための戦略やメソッドは、多くのプロフェッショナルにとって、喉から手が出るほど欲しい、切望するものではないでしょうか。この背景から【イノベーションを生み出す組織風土〜成功確率を高める戦略とメソッドを!】というテーマでのイベントが決まりました。
メイン講師には世界的なイノベーションコンサルタントであり世界第3位*のデザイン思考家、FORTHメソッド開発者のハイス・ファン・ウルフェン(Gijs Van Wulfen)氏をお招きし、午後は書籍『ONLINE INNOVATION』の共著者4名全員が、EU各国からZoom登壇するという豪華な布陣で開催されました。
[*Top 50 Global Thought Leaders and Influencers on Design Thinking (February 2020)]
本書の日本語版である『ハイブリッドイノベーション:イノベーションの障壁をリモートワークで乗り越える』ができあがった絶好のタイミングでの開催です。(クラウドファンディングで翻訳出版が叶いました!)
ワークショップにはNTTグループや村田製作所、シミックHDなど大企業から、そして中小企業診断士等、22名。開示時刻の5分前には勢揃いという、熱意溢れる面々が集いました。
午前中はイノベーション・カルチャーの育成方法、イノベーションの障害の克服方法などについて学び議論しました。午後は、ハイブリッド環境下におけるイノベーション・プロジェクトの実践方法や、オンラインでのイノベーション・ツールについての深掘りが行われました。
各セッションは、実践的な内容が盛り込まれており、参加者はイノベーションを実現するための実践的な知識やスキルを多数、体験しました。
4. 午前のテーマ「イノベーション・カルチャー育成の鍵」
午前のセッションでは、Wulfen氏がグローバルイノベーション指数の最新版を紹介。日本(東京・横浜エリア)は科学技術・研究開発の革新度はランキング1位であるものの、イノベーション指数はシンガポール・韓国・中国のフォロワーであることを指摘します。
その上で、日本の組織がイノベーションに苦しむ「10の理由」を全員で議論しました。この議論の結果、特に「リスク回避の風土」「組織のサイロ化」「レガシーの負債」という3つの要因がイノベーションの阻害要因として浮上しました。
また、R&D (Invention)をイノベーションに転換するための5つの提案、さらには日本では「”WA”(和)nnovation」、つまり組織内や顧客との"調和"こそが重要であるという、新たなコンセプトが提示されました。
「大企業においてイノベーションを開始しなければならない理由」についての議論では、参加者全員の投票により「顧客への価値を最大化させる」「利益の確保・増大」「将来の道をつくる」という3つが重要だという結論を見出しました。
5. 実践的レクチャー&ワークショップ「ハイブリッド・イノベーションの具体的手法とノウハウ」
午後のセッションは、新しいイノベーションのアプローチとして注目の「ハイブリッド・イノベーション」を中心に行われました。新刊『ハイブリッド・イノベーション』の原著「ONLINE INNOVATION」の著者陣が全員、Zoomを介してEU各国から特別登壇しました。
日本(品川)と各国との接続により、まさにリアルタイムでハイブリッド環境下における、新しいアイデアの創出方法や、新規プロジェクトの開始方法に関する具体的かつ実践的なTipsが、次々と共有されるノンストップの2時間。参加者のほとんどが、トイレに行く間も惜しんで大量のメモを書き残していました。
さらに、Rody氏(オランダ)とFlorean氏(ドイツ)の2名のFORTHメソッド公認マスターファシリテーターによる特別ワークショップが開催されました。このセッションでは、オンラインツール"Mentimator"を活用した「Lightning Decision Jam」(クイック問題解決ワークショップ)がスマホやPCを持つ全員の参加のもとで行われました。
テーマは「イノベーションを生み出す組織風土の醸成方法」。わずか60分間で「どうすれば役員層に、新しいことに対する興味関心を高めてもらえるか?」という焦点を絞った議論が行われ、その結果、わずか10分足らずの間に110の新しいアイデアが創出される、という成果を上げました。
6. 参加者の声「まずは一歩から」
1. イノベーションは一歩から始まる "Innovation starts from One Small Step!"
2. 順調に進まないときも、その状況を楽しむことができる。いい意味で機能しない状況を楽しんでいる。
3. 新しい取り組みが注目を集めることを期待している。バズったらいいなーと期待感が高まる!
4. 次のアクションのための迅速な意思決定ワークショップを思い出に残るものとして実践 "Lightning Decision Jam for next action in memory"
5. 我々の革新的な取り組み。"WAnnovation!"
6. 自らのアイデアを社会と共有し、社交の場にする "Ours' baby, Idea→Socialization"
7. Mentimeterを活用して、感じたことをリアルタイムで共有し、共感を得ることが可能 -感じたことをすぐに共有して共感を得る手法として使える。
7. イノベーションを生み出す組織カルチャーとは「失敗を恐れずに挑戦する意識」から始まる
イノベーションは一時的な試みや取り組みに留まるべきではありません。持続的なイノベーションは、組織全体の文化として浸透し、それを支える土台となるものです。
今回の議論や取り組みの成果を踏まえても、イノベーションを継続的に推進することの重要性は明らかです。しかし、真の変革や新しい価値を生むためには、組織としての長期的なビジョンと、その実現に向けた具体的なアクションが不可欠です。
イノベーションは単なる一過性のブームやトレンドではなく、組織の未来を切り拓くための持続的な取り組みとして位置づけるべきです。参加者の方々、そしてお読みいただいている皆さんひとり一人にも、この長期的なビジョンを共有し、イノベーションの真の価値を追求していただきたいと思います。
写真:三宅泰世、山本伸
山本伸
シミックホールディングス株式会社CEO Office / CAN Unitファシリテーター
多摩大学大学院MBA客員教授
FORTHイノベーション・メソッド公認マスター・ファシリテーター & Global Leadership Team
レゴ®シリアスプレイ®メソッドと教材活用トレーニング修了認定ファシリテーター
Business Model Generation(原書)著者であり、当協会のシニアアドバイザーでもあるアレックス・オスターワルダー氏、イヴ・ピニュール両氏、各々の日本初講演をプロデュース。ビジネスモデルキャンバスの本流を知る伝道師。
医療・ヘルスケア分野の異業種共創型オープンイノベーションの専門家。シミックではグループ横断で、組織変革及び新事業開発プロジェクトを複数推進。そもそもは、シミック入社時たった4名で開始した「時間外残業代無教材自腹」の部門間横断社内外共創インフォーマル・ネットワークが起点。18ヶ月で100社・団体超から延べ1,100名以上が参画し、2019年社内で奨励賞を獲得して活動が社内で公認となり、グループ横断バーチャル組織Team Sprintが発足。共同代表として、理念・Mission/Visionの浸透、採用活動へのBMCの投入、そしてCMIC Open Innovation Labo (COIL)のプロセス運営を担う。2021年からは全社員向け認定制度にビジネスモデル・デザイン教育プログラムを投入し、運営を統括。
静岡県生まれ。名古屋大学大学院工学研究科修了(博士)。スイスBasel免疫研究所Research Student、カリフォルニア州立大学サンディエゴ校医学部ポスドクを経てアカデミアから企業人へ転身。外資系3社16年間で研究、技術営業、事業開発など「サイエンス」でビジネスを支援する職務に従事。バイオと医療、そしてアカデミアと産業界、双方での経験から、ヘルスケア領域には多数多層のネットワークを持つ(Facebook4,000名、LinkedIn2,000名)。
人生のミッションは「イノベーションを起こし続ける人財の発掘と組織開発」。達成したいビジョンは、“老若男女誰もが失敗を恐れず「挑戦を続ける」ことが最も賞賛される社会の実現“。ライフワークとして、大学院でのビジネスデザイン教育や、大学のビジネスデザイン、アントレプレナーシップ教育にも積極的に従事している。
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