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構造的ロジックという呼称
世の中は複雑なので、三段論法のようなシンプルな因果関係で説明できない。多くの要素の関係性のなかで判断しなければならない。そのことを、以前から「構造的ロジック」と呼んでいる。この言い方はもちろん学術的に定められているものでもなく、これでいいのかどうかまだ確信がない。しかし、とにかくさまざまな要素が絡みあっていて、複数のロジックを同時に、構造的に捉える思考が、これからはいよいよ重要になるのだということを言いたいわけだ。
複数の要素が絡み合うことで複雑性が増すという事象について、たとえば三体問題というものがある。互いに重力で影響し合う3つの天体の動きは、カオスになり、解析的な解を持たない。計算可能な物理法則で動いている天体も、たった3つ組み合わさることでそのような状態になるのだから、より多くの要素が絡み合う社会などは、いよいよ予測不可能性が高くなる。
こうしたことを「複雑系」と呼ぶこともできるが、複雑なものをただ複雑と呼んで片付けてしまう感じになってしまうので、あまり気が進まない。実際には、すべてが複雑で予測不可能なのではなく、複雑な部分もある一方で、100円を出せば100円のものが購入できるという仕組みはしっかりとした予測可能性が保証されている。つまり、確実なものと不確実なものが混在しており、それは複雑な社会においても同様だ。
一方で、「システム」と呼ぶのも、しっくりこない。システムというのは基本的に閉じている。システム思考では因果ループ図で描く。「システム」という言葉のニュアンスには、外部と内部が切り分けられ、独立した閉鎖系システムとして動くという前提があるからだ。しかし、構造的ロジックで示そうとしていることは、必ずしも閉じたループにはならない。地球の中のエコシステムは閉じているように見えて、太陽からのエネルギーを受けて成立する開放系システムである。この世界の大前提がもつこの開放系を考えると、閉鎖的ニュアンスのある「システム」と呼ぶのはどうか、と思うのである。
「ホリスティック」という言葉も一時期流行った。全体を捉える考え方であり、ヒッピーカルチャーのブームの際に登場した概念だ。人の健康も、対処療法ではなく、その人全体の調和を考えなければならないし、組織の健全性もホリスティックに取り組む必要があるだろう。環境問題への取り組みも、今はカーボンニュートラルなどの局所的な話がフォーカスされるようになったが、少し前はホリスティックなアプローチが注目された。「複雑系」や「システム」に比べると、この「ホリスティック」という概念は、まだしっくり来る部分はあるが、しかしこうした歴史的に若干含まれているスピリチュアル成分が、気になるといえば気になる。
こうして考えたとき、「構造的ロジック(Structural Logic)」というのが、一番いいのかなというふうに思っている。この言葉は、20世紀の構造主義の文脈を前提とした構造の概念を取り入れ、その応用範囲は言語から人間関係、認知構造や社会構造まで多岐にわたる。「複雑系」のように、複雑さを前提とすることなく、単純な構造も指し示すことができる。「システム」のように、閉鎖系に限定される印象もなく、また「ホリスティック」のようなスピリチュアル的調和イメージもない。
ちなみに、「構造化思考」とか「構造思考」という言葉もあるが、それもニュアンスが異なる。構造化思考は、いわゆる要素分解する思考法を指すことが多く、コンサルタント必須のスキル、などと言われやすい。問題を要素に分解するのではなく、分解せずにそのさまざまな因果関係をまるっと取り扱いたい。「構造思考」は、「構造化思考」よりも私のニュアンスには近いが、構造がきっちりしすぎていて、構造の生成変化に無関心に響く。構造的ロジックは、動的なロジックの流れを構造的に捉える、というニュアンスで、固定的な構造を想定はしたくないのだ。
そう考えると、結局「構造的ロジック」としか言いようがなくなる。ただ、この呼称の問題は、一般用語っぽい言葉でインパクトがあまりにないところだ。「的」がつくと、どうしても説明っぽくなって、言葉にインパクトがなくなる。
というようなことを考えながら、今日も「構造的ロジック」という言葉を使ってしまった。大谷翔平現象を構造的ロジックで説明した。ほかに、いい言葉がないものだろうか……。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
日本ビジネスモデル学会 BMAジャーナル編集長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師
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小山龍介のビジネスモデルノート
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