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理事無碍法界の「理」と「事」について
中沢新一が『レンマ学』でたびたび言及する「理事無碍法界」を、まず簡単に説明しておくと、「理」が真理、すなわち普遍性を意味し、「事」が個別具体の現象を意味する。その「理」と「事」が「無碍」、つまり何も妨げられることなく同時に存在する状態というのが、「理事無碍」である。最後の「法界(ほっかい)」とは、すべての存在や現象を包括する宇宙全体を指すもので、すべてがひとつのつながりのなかで存在しているという意味だ。
「理事無碍」をあえて卑近な話で例えてみると、たとえば左翼というのは人権や世界平和などの普遍的理念を追求するがゆえに、民族ごとに異なる人権意識や特定民族のみがもつ世界認識みたいな右翼的個別性を否定しがちである。この対立はたいへん深いもののように思われるが、それが「無碍」、なんの障害もなく浸透し合うというのだ。抽象的な理念の中に、具体的な現象があり、具体的な現象のなかに、抽象的な理念を見るというのは、なかなか難しいものだと思われる。しかし、左翼の中に個別具体の現象を見て、逆に右翼の側に普遍性を見ることができれば、たしかに左右が理解し合えそうな気もしてくる(いや、しない)。
ともかく、私たちはつい、普遍的な理念ばかりを追いかけて、具体的な現象をないがしろにしがちだったり、一方で個別具体の現象にアドホックに対応しすぎて、理念を忘れてしまいがちになってしまう。そうならないように、「理事無碍」が重要ですよ、ということなのだが、もちろんこれは、ちょっと簡単に言い過ぎている。抽象と具象が同時に存在するという知性のありかたは、すでに抽象的な機能を持つ言語が当たり前となっている現代人には、想像さえ難しいものだ。
この「理事無碍」を本当に理解するためは、理と事が分離する前、人間がロゴス的知性を獲得する以前にまで遡る必要がある。前述のように言葉は抽象性を持っているから、当然「理事無碍」は、言語発生前の状態であり、これは言語の「起源」をめぐる問いでもある。そんなことを想像しうるのは詩人くらいであった。
中沢は、その言語の「起源」をたどりながら、理事無碍法界の周辺を散策する。まず、ホモ・サピエンス以前の人類も「言語」をもっていたが、その言語は象徴性を持っていなかったので、リアルなライオンを指し示すことができても、抽象化されたライオン性を表現できなかった。
それが生まれたのは、異なるものを重ね合わせることができるようになったからだと、中沢は考える。数を数えるとき、私たちは無限に足し上げていくことができる。これはロゴス的知性である。近代はそうして私たちが決して数え切れないような巨大な数字を想定することができた一方で、私達の人生は、80億人の一人というちっぽけなものになってしまった。
ところが、ホモ・サピエンスが獲得した数字にはもうひとつの性質があった。月は1月から始まり12月にたどり着き、そこから1月という同じ場所に戻って来る。去年の1月と今年の1月とは違うもののはずだが、それを「同じ」ものだとして重ね合わせるところに、象徴性がでてくる。こうした周期性・円環性によって「喩的能力」が準備されたのだという。ちなみに音楽の音階も、一オクターブで戻って来る周期性・円環性があり、ホモ・サピエンスになってようやく音階の概念が生まれた。神話の構造もこの円環性をもっている。そして、神話はさまざまなイメージが重ね合わされて作られる。
「理事無碍法界」というのを、この言語の起源(正確には、数字だが)にたとえて説明するとすれば、永遠に数え続けることのできる「理」としての数字に、個別的な現象を複数重ね合わせていく「事」としての数字を、同時に存在させる、ということなのである。
旧石器人はこのような認識を、主に月の満ち欠け現象を観察することで得ていたのであろうが、その認識は季節や天界の運行にまで拡張される。天文観察がそのような認識を人間の心に生み出したのではない。人間の心/脳に最初から「同じものの回帰」を認識する能力が備わっていたからである。その能力は「併合」=「喩的能力」によって準備されたものだが、それを可能にするのは「一心法界」の本質をなすレンマ的知性である。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
日本ビジネスモデル学会 BMAジャーナル編集長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師
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小山龍介のビジネスモデルノート
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