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18のわたし、26のわたし

18の夏、全国大会で優勝した。
軽音楽部でも、夏が青春の季節だったんだと、大人になってから気づく。

私の学校はいわゆる強豪校と呼ばれていて、決勝進出までは嬉しい気持ちもありながら、当然という気持ちも大きいような、そんな学校だった。
そんな学校の部活であるから、軽音楽部目当てで入学する生徒も少なくない。私がその1人だ。そして私は、その憧れの部活で17の時に部長を任された。当時部員の数は98人。いまだにこの数字は忘れない。

当時はまっすぐに音楽できる人が心底うらやましかった。
私もまっすぐ音楽がしたくて入ったけど、部長だからみないといけない部分が大きく、それが苦しくて、毎日部活をする、それだけで精一杯だったなあと、振り返ると、思う。
それでも、人生で1番楽しかった時期は、やっぱり高校の部活に注いだ3年間の時間だ。これは卒業して8年、揺るいだことがない。
嬉しいような、切ない話だ。

仕事でつらくなると、高校生に戻りたくなる。
部活だけを楽しんで真剣にやっていたらよかった、あの時期が恋しくなる。
毎日毎日部活をして、ヘトヘトになりながらも、帰り道はみんなで笑いながら、時には怒りながら、駅に向かう。ギターやベースを担いでよたよたと歩き、それなのに寄り道して、疲れはてて家に帰るとすぐまたギターの練習をして、バンドメンバーと曲を決めたり、時には喧嘩したり、そんなやりとりをしている毎日。ギターを抱えながら寝た日もあった。ギターができなくて寝れない日だってあった。
ああ、今思っても本当に楽しかった。
本当に本当に、心底楽しかった。

思い出すと同時に、母に言われた言葉が頭をよぎる。
「そう思うのは、あの頃の自分を今の自分が越えられていないからだよ」
痛いところを突かれたのかもなあ、と、何も言えなかった。そしてふわふわしていた自分を自分で現実に引き戻す。

毎日ギターを弾いて、毎日マイクに向かうそんな3年間が終わったあと、しばらく音楽と触れてこなかった。そんな余裕もなかった。新しい環境の連続で、夜間専門学校のタイトなスケジュール、日中はアルバイト、あっという間に就職活動、そしてブラック企業に就職、心を病んで退職、新しい会社に就職、気づかないうちに8年の月日が経ち、18歳、1番輝いていた私は、26歳になっていた。

音楽しかしなかった3年間が嘘のように、携帯から音楽を聴く、それが今の音楽に触れる瞬間。たまにギターを弾くが、すぐに指が痛くなる。今は毎日パソコンへ向かい、デザインをして、ああでもないこうでもないと、自分とやりとりして、自分の限界をしってまた嫌になり、あの頃の自分へ逃げる。もっとできたはずなのに。いやあの頃も毎日泣いていたか。部員がいうことを聞かなくって…そんな腹が立つ出来事を思い出していても、笑ってしまう。楽しかったなぁ、と思い出していると、次には泣いてしまう。

あの3年間で、大っ嫌いだった自分のことを少し好きになれたと思う。でもやっぱり何かできないと嫌いな自分を思い出す。そして絶望する。部活をしていた自分はもう戻らない。何も考えずに音楽ばっかりできたあの頃とは違う。もう私は26だ。生きねばいけない。
少し好きになれた3年間のせいで、今も自分に期待をしてしまう。何かできる、何者かになれた気がしてしまったあの頃の自分を忘れられずに。
そして思い出に一度蓋をして、また仕事をする。

仕事が嫌いなわけではない。デザインするのは楽しい。楽しいが苦しい。
でもこの職業につけたこと、幸せに思う。表現できるものになれてよかったと感謝する。そういった部分とは別に、あの頃が恋しいのだと、迷う自分を何度も何度も説得させる。

何もかもが変わってしまった今を受け止めるには、まだむずかしい。
自分も周りも、家族でさえもう変わっているのに、18の私だけが、じっとこっちを見ている。私頑張ったよねと、今の私に伝えてくる。次は私の番だ。
あの頃の友だちに、また音楽やろうよと声をかけた。友だちは、息を吸うほど当たり前かのように「いいよ」と、二つ返事だった。18の私よ、これでいいかい?少し満足そうだ。


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