パーソナリティ障害について
日本福祉大学 教育・心理学部 早川 すみ江先生の講演の備忘録
パーソナリティとは
その人特有の特徴的で一貫性のある認知、感情、行動などの「あり方」
パーソナリティは年齢・経験を経ることで成熟していくもの。
成熟したパーソナリティとは
「職場の先輩に書類ミスについて長々と怒るけれど、怒るだけの理由があるわけだから無理もない」と思うことができるか?
こういった考え方ができるのは成熟したパーソナリティと言えます。これまでの人生で以下のようなことを経験したことがあるかどうかで成熟度が決まります。例えば、人と喧嘩をしても仲直りしたという経験があるか、これは一度壊れた他者との関係を再構築できるかどうかです。そして人に助けを求めた経験はあるか、人に助けを求める=自分の弱みを認めるということです。不得意な人も多いのではないでしょうか?これらの経験によりパーソナリティは成熟していきます。「職場の先輩は意地悪なところもあるけど、優しいところもあるな」と思える。他者についてその人の色々な面を理解できるか。相手の立場に立って考えられるか。
「長年可愛がっていた愛犬が亡くなった。落ち込んだけれど、何とか乗り越えることができた。」喪失や別れの体験を悼むことができるか、自分なりに切り抜けることができるか。
「出世できない自分は、辞めるしかない無能な自分」と極端なことを考えず、平社員として勤務できる。これは自分の色々な面を認識して、自分の理想と現実的な能力が一致し、ジレンマを起こすことなく対応できています。
「自分の能力を正しく評価して、目標に向かってコツコツ勉強できる。」理想と現実が一致していない時、実現させるために努力することができるか。
パーソナリティ障害とは
パーソナリティに著しい偏りがあり、本人や周囲の人に苦痛を与えたり、社会生活に支障をきたしている状態です。
身の周りにいる困った人たち
私たちの身の周りに人を困らせたり、相手を傷つけたりする、本人や周囲の人がこれでは困る、何とかしなくてはと思いながら、どうにも変わること変えることができない場合がある人はいないでしょうか?パーソナリティが成熟しておらず、なぜか周りの人や特定の人を困らせてしまう人、そういった人が全てパーソナリティ障害というわけではありませんが、その言動が周囲に大きくネガティブな影響を与え始めたら…パーソナリティ障害である可能性はあるわけです。
早川氏は講演の中で自己愛性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害を取り上げた。
自己愛性パーソナリティ障害
特徴
現実に関わらず自分を特別優れていて、賞賛されるべきと考え、過剰な賞賛を求める。
自分は特別な存在で、それを理解できるのは他の特別な才能に恵まれた者だけだと考える。
自分に対する特別有利な計らいや賛同を理由なく期待する。
目的のために他人を利用する。
他人の気持ちや感情を軽視し、思い上がったり、人を見下すような態度をとる。
他人に嫉妬したり、他人から嫉妬されていると思い込む。
自己愛が極端に強いために自分のイメージばかりが膨らみ、現実とのギャップに苦しみ結果として心の病を抱えることもあります。
<例えば> 不眠症、摂食障害、不安障害、パニック障害、うつ病、心身症など
<タイプ①はこんな人>
A部長は能力もあり、能力もあるので出世頭ですが、横柄で傲慢なところがあり、部下が思い通りに動かないと、時に激怒することがあります。自分が提案したプロジェクトのために部下を手足のように使い、何が何でも実現させ、手柄は自分のものにして、周囲の人への感謝の気持ちはまるでありません。飲み会では同じ内容の自慢話を繰り返し、皆がうんざりしていることも分からず、遠回しに迷惑だと伝えても意に介していないようです。
周囲を気にかけず、横柄で傲慢
攻撃的で他者の反応を気にしない
自分に夢中で注目の的でないと気に入らない
気持ちを傷つけられても平気そう。
<タイプ②はこんな人>
独身男性のBは会社では目立たず、仕事はそれなりにこなしますが、がむしゃらに働く感じではなく、帰宅後も趣味もなく、ゲームをしたりぼんやりして過ごしています。同僚とのおしゃべりにも加わらず、むしろ超然として孤独を満喫しているようです。しかし、心中は激しい葛藤を感じており、出会う人はことごとく自分を無視しているのでは?と、感じていた。勇気を出して職場の飲み会い参加すると、注文をとりまとめた女性社員がBさんの注文だけ思い出せなかったのを、自分だけ仲間外れにされ、いなくてもいい存在だと思い込んでますます孤立していくのでした。
周囲を過剰に気にするタイプ
内気で恥ずかしがりやのため自分を出さない
他者の反応に敏感で他者からの評価を気にします
注目の的になるのを避け、傷つけられたと感じやすい
自己愛性パーソナリティ障害者の心理
理想の自分と現実の自分の間にギャップを感じ、自己愛が傷つき、自己評価が下がってしまい、引きこもりや抑うつ状態になってしまうケースもあります。
自己愛性パーソナリティ障害の人は普段は自分をガードしており、自分はすごいと賞賛されて当然と思っています。他人は常に自分との比較の対象であり、相対的な見方でしか自己を見つめることができません。自分が失敗することは負けることに他ならず、それを恥じと感じ、屈辱的な気持ちに耐えられず、怒るという過剰反応を示す場合もあります。現実の自分と向き合えずにいます。また、他人の感情の動きより、その言動に注目し、理想化してしまうため、他人の多面性を理解できず、幻滅すると勝手に怒り、人間関係もうまく行かないという悪循環が起こります。
根底にある「見捨てられ不安」
例えば上司からのアドバイスも自分への拒絶と受け止め絶望感が湧いてしまうことがあります。夫婦や恋人同士の場合、相手が自分を見捨てないかを試すような行動をして相手を振り回します。そういった場合極端な言動や破壊的な行動、さらには自傷行為につながることもあります。
なぜパーソナリティ障害への対応が難しいのか
そもそも本人は困っていないし、自分に問題があるとは思っておらず、周りの何かしてあげとうとした周囲の人が徒労感を感じてしまいます。また、衝動的に激しい行動を繰り返し、回避行動も見られるため、周囲の人は振り回され疲弊していきます。
パーソナリティ障害への対応について
パーソナリティ障害の人は病的な面と健康な面を持っており、急に入れ替わるため、できるだけ健康な面が表れているタイミングで対応する。そのため、相手の言葉や行動だけに振り回されず、その奥にある内面を推し量ることが大切です。何かをしてあげなければならないと思わず、適度な距離を保つ。
パーソナリティ障害の治療について
パーソナリティ障害はパーソナリティの極端な偏りです。そのものに効く薬はなく、パーソナリティ障害のために現れる不眠やうつ病、双極性障害、依存症などの合併症に対して薬を飲み、その下にあるパーソナリティ障害については心理療法を行うことが多く、その治療には年月を要します。数年から十年など。
それでも私たちは社会福祉士としてそういった人たちと関わっていかねばなりません。高齢者の困難ケースにおいても、診断を受けていないパーソナリティ障害が関わっている場合は多いのだろうと感じます。しかし、パーソナリティ障害について深く知れば知るほど、実は誰もがどこかに当てはまっていることにも気づきました。私自身にもその片鱗は見られます。パーソナリティの偏り、それを障害とするのか、個性とするのか、その見極めをするのが精神科の専門家というわけですが、社会福祉士としてその個性がその人の生きづらさに直結した場合、やはり障害として支援に繋ぐ必要があるのだと言い聞かせています。
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