史上最大のボロ儲け
ブルーツ・リーです。
先日、暗号資産(仮想通貨)市場の時価総額が3兆ドル(約340兆円)を超えたというニュースがありました。
2020年末の水準から4倍近く膨んだということで、「ビットコイン」や「イーサリアム」といった広く知れわたった仮想通貨がまたたく間に価格が上昇したことに加え、DeFi(分散型金融)やNFT(非代替性トークン)の可能性に対する関心も高まっています。
2017年ころにビットコインが数十万円から200万円まで上昇してバブル感を経験し、そこから暴落したものの、いまでは700万円を超える価値にまで到達していることを考えると「もっと、値上がりするのでは?」と期待してしまいます。
そんな盛り上がりをみせる仮想通貨市場ですが、
かつてはアメリカの住宅市場でも値上がりが加熱し、その後バブルが弾けて世界中の株価に混乱を与えたことがありました。
そう、「リーマン・ショック」です。
この世界的な同時不況がおきた裏側で、
アメリカ金融界の「名もない投資家」が、
一世一代の取引によって、巨額の利益を手にした実話本が
「史上最大のボロ儲け」です。
まず、このリーマン・ショックとはなんだったのか。
それはサブプライムローンという、信用度の低い人でもローンが組めてしまう、住宅ローンに端を発します。
この「誰でも保証なし」で家のローンが組めるということは、アメリカ国民は「住宅さえ買っておけば儲かる」という状態になっていたということです。
つまり、住宅価格が上昇し続けているので、いつでも買った金額より高く住宅が売れる、という考えです。
住宅価格はそれまで上昇の一途をたどっており、
これからも住宅市場は上がり続けるというのが、当時の金融界や不動産業界の常識でした。
この「住宅神話」がはびこるなか、住宅市場が暴落する可能性が極めて高いことを察知し、暴落に賭けて一世一代の取引をして巨万の富を手にしたのが、ジョン・ポールソンという投資家です。
ジョン・ポールソンは、投資家として当時は無名で目立たず、不動産や住宅ローンに関しても素人同然でした。
そのような男が、どうやって住宅市場の暴落を察知し、ウォール街を尻目に莫大な利益に変えることができたのか。
実は住宅市場が暴落する吉兆は客観的なデータからもみえてはいたが、周囲のほとんどが暴落が起きても国の支援でカバーされるなど、住宅市場やサブプライムローンに問題はないと考えていました。
このときの状態を本書では、
音楽が止まっているのに踊り続けている
と表現しています。
ポールソンはその状況下でCDSという、住宅市場が落ちると値上がりする金融商品を買い続けていました。
一向に住宅市場が下がらないなか、誰も目もくれないCDSという商品に「逆張り」し続けていたわけです。
これが功を奏し、ポールソンは数百億ドルを稼ぎましたが、その裏で、どこかの企業が損をしていて間違いなく破綻する、と考えていたわけです。
本書では、ポールソンを中心に話は進行していきますが、ポールソンにアイデアを与えた男、ポールソンと同じ分析をして行動をしようとしたが様々な制約からポールソンほど儲けられなかった男、ポールソンにCDSを売った銀行側の男など、さまざまな人物が登場します。
そして、それぞれが住宅バブルの崩壊に対応し、その後の人生を歩んでいく事になります。
細かい取材に基づくこのドキュメンタリーは、
映画や小説さながらなの内容で、金融や投資に詳しくない人でも十分に惹きつけられる読書体験になります。
大方の専門家が問題ないと豪語して支持していた住宅ローンに対して、自分を見失わずに貫きとおせたのも、不動産や住宅ローン投資の「素人」であったからだといいます。
素人であるからこそ、客観的なデータをつぶさに調べあげて事態を俯瞰的に見通し、それでも自分の考えにまだ見落としがないかを何度も確認する。
そのうえで、周囲に流されることなく自分の考えを貫き行動することが、
これほどの大取引に勝つには大事であることを学びました。
また、この歴史的な住宅・金融破綻を予想したのは、大企業のトップや政府の要職などリーダー的資質をもつ楽観的ポジティブな人ではなく、むしろ人付き合いが苦手で悲観的な投資家たちであったということも、面白いです。
この歴史的金融崩壊を予想して莫大な利益をあげた、抜け目のない一握りの投資家たちのストーリーをぜひ堪能してみてください。