vol.65 私と家族のためのシェアハウス、を編む
はじめまして、今回noteを担当させていただきます、北村です。
ブルースタジオには設計・不動産・ブランディングなど様々な職種に従事する個性豊かなスタッフがたくさんいますが、そんな会社の中で私の事を紹介させて頂くならば " 子育て経験のある女性設計スタッフ " です。
突然ですが、皆さんは「暮らし方」について考えたとこはありますか?
一般的には、就学・就職・結婚・育児などライフスタイルの変化に合わせて住む街や家を替えますよね?若い頃は建物のグレードや勤務地や駅からの距離といったハード面を重視する人が多いように感じます。私も同じ様な選択をしてきました。ですが、年齢を重ねていく内に、何か物足りない事に気がついたんです。
今回は、私が担当しているプロジェクトのご紹介なのですが、偶然にも、同世代・同じ家族構成・お子様の年齢までも同じお施主様と出会い、同じ悩みを共有しながら、自分らしい「暮らし方」を求めて邁進していく様子を見ていただければと思います。
改めて、今回のお施主様は埼玉県にお住まいの嶋田陽子さん。家族構成は、ご主人とお子様(6歳)との3人暮らしです。嶋田さんは20代の頃にシェアハウスで暮らした経験もお持ちで、初対面でも気さくに話をしてくれる、名前の通り"陽"のオーラが満開の人。そして何よりご友人と食事やお酒を飲む事が大好き。
家族だけじゃ足りない?
暮らし方を見直したきっかけは
嶋田さんが「暮らし方」を見つめ直したのは40歳を迎える頃。20代〜30代は仕事中心の生活で、友人との交友関係も活発でしたが、結婚・出産を経験していくうちに、ご自身も周囲も落ち着いた事で、ご自宅で過ごす事が増えたそうです。この時期、世間はコロナ禍真っ只中。物理的にも人とのコミュニケーションが絶たれていた状況だったのではないでしょうか。このまま家族だけで暮らしていくのか? 学生の頃に暮らしていたシェアハウスの様にみんなとワイワイ暮らしたい。そんな茫然とした考えが浮かんだそうです。
私も、「暮らし方」を見つめ直したのは出産と子育ての時期でした。子供の将来を見据えて引っ越しをして、満足いく住空間は手に入ったけれど、私と主人だけで子育てをしていくのには限界を感じることもしばしば。大人の手を借りたい。実家が近ければ良かったのに。そんな事を何度思ったことか。加えて、この街が子供にとって地元になるのかと思うと、もっと地域に目を向けて、繋がりを持とうとする自分がいました。嶋田さんも私も共通して感じていたのは、暮らしのソフト面(人や地域との繋がり)が足りていないという事だったんだと私は考えます。
そして嶋田さんが悩んで導いた答えは、シェアスペースがある賃貸併用住宅を、自らオーナーとなって創ることでした。
戸籍上のつながりはなくても、家族のように緩やかに繋がる暮らし
家を起点に街の人とつながって、街全体がホーム(地元)と呼べる暮らし
足りてないと感じていた部分を外に求めるのではなく、自分が担うという覚悟はとてもすごい決断だと思いました。
歓迎してくれた街、川越
私たちブルースタジオは土地探しからご一緒して、選ばれた街は埼玉県川越市。敷地は川越の代名詞 "蔵造りの街並み" から少し外れた場所にある落ち着いた住宅街。歴史を紐解いていくと、川越城の堀跡にある武家屋敷の跡地でした。
歴史的な街に入っていくのは勇気がいる行為かも知れませんが 、川越の方々は、一緒に街を盛り上げてくれる一員として嶋田さんを歓迎してくれたそうです。
また、今回のプロジェクトは街と繋がる事も目標にしていたので、"街歩き"を行いました。敷地を中心にお子様が通う予定の小学校や近隣の神社、歴史資料館等を一緒に歩きました。駄菓子屋さんで飲み物と焼きそばを食べて休憩したり、味覚を使って楽しむ事も忘ません。土地のことを学びながら、事業主さまと私たちブルースタジオの認識を合わせていく、これは私たちブルースタジオがとても大事にしている意識です。
自宅のキッチンをシェアスペースに
構想すること1年、ようやく出来上がった計画は木造2階建て。シンメトリーな三角屋根がアクセントの建物です。1階には、お施主さまである嶋田さん家族が暮らすご住宅、そして入居者全員が利用できるシェアスペース(ダイニング・キッチン)。2階には面積が異なる3タイプの賃貸を配置するプランが完成しました。
設計担当として大事にしたのは、自然なコミュニケーションを促し、積極的にシェアエリアを使いたくなる仕組みづくりでした。
住む人の動きを感じる共用の階段
階段室とシェアスペースは隣り合っていて、ガラスの建具で間仕切られています。エントランス扉から自室までの人の動きが見合えるので、ただいま・いってきますの挨拶が自然に生まれまるのではないでしょうか。
事前に約束なんてしなくとも、食事中に帰宅した人がいたら「食べてるからこっちで一緒にたべよう!」って声を掛ければ済むかもしれません。
シェアスペース(キッチン・ダイニング)は皆さんが使いやすく
日常的に1階に降りてきて欲しいので、賃貸の部屋にもキッチンはありますが、あえての必要最低限のサイズにしています。代わりにシェアスペースには、ガスオーブンや大容量の食洗機など、充実した設備が用意されているので、入居者全員で集まって食事を楽しんだり、先生を招いて料理教室する事もできるかもしれませんね。
また、シェアペースでありながら嶋田さんのご自宅のキッチンを兼ねているので、嶋田さんは毎日この場所を使う事になります。活用され続けるには常に動きがあるということは重要だと考えています。
家族がいるからこそのシェアハウスの可能性
子育ては家族で行うものだと自分から「暮らし方」を制限していたのかも知れない。嶋田さんの考え方を知ってからは、そんな事を考えさせられました。シェアハウスというと、単身者に向けた住宅をイメージしがちですが、家族ができたからこそのシェアハウスという選択があるということ。
一緒に住む人の属性は、必ずしも同じでなくてもいいかもしれません。いろいろな個性が集まって関わる人たちが多ければ繋がりも増えることでしょう。また、ここが地元という意識をもつことで、自分事としていろいろな毎日が見えてくるはず。
ブルースタジオは、自分らしい暮らしを思い描いて突き進む嶋田さんの物件作りをサポートさせて頂いている訳ですが、ここに嶋田さんの魅力的な人の思いが重なります。このプロジェクトが出来上がった後も、この“家”はこの地で素敵に成長していくことでしょう。
計画も最終段階、3月竣工に向けて現場が進行中です。さてどんな暮らしが編まれていくのか乞うご期待!
vol.66は嶋田さんへのインタビュー編です。