その痩せた肌の下で廻る花の声
今日もまたバイオリンのレッスンの帰り道、またいつもの河川敷を歩いた。マスクをして歩くと体内に熱が籠ってくるのが分かる。本当はこういう道では静かな冷気を吸い込んで肺の底で冬を感じたいのだが、今の時勢ではそうもいかないのが寂しい。
写真を撮りながら歩くが、相変わらず代わり映えしない作品しか撮れない。たいして成長しない人間が同じ道を歩いているのだから当然だ。しかしどうしたオートフォーカスの調整か、思いもよらぬコントラストの映像が撮れることもあり、偶然には期待すべきと確信する。
樹木には多彩な表情があるが、冬の凍ったように晴れた空に広がる枝が最もエロティックだ。新芽が開いた後ではいけない。その直前、冷気の中に剥き出しとなった樹枝にこの上ない高揚を感じる。幾何学的に無駄のない、最小限でかつ高密度の命の充填……。
この約2kmほどの距離、私にとっては魅力的な被写体に溢れた道なのだが、すれ違う人々にとってさして興味を引くものではないらしい。写真を撮っている人物はほとんど見かけない。毎日の散歩コースである人にとってはありふれた日常だからかもしれないが。
だが私にとってはそこらの夜景やパンケーキよりも魅力に溢れている。
冬は冬、そして春も歩くだろう。
今日の英語:Withered grass