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明と無明の狭間に散歩す #後

 この日は桜を見に来た筈だった。しかしjamais vuのような妙な空気にすっかり目眩を起こしてしまった。

 そもそもここ数年は最適なコンディションで桜を見れた記憶がない。いや最適どころか、今日は適と不適の中央から不適寄りのコンディションだろう。雨が降っていないというだけで花が映える要素がひとつもない。

 しかしそれは花には関係の無いことで、そもそもこの花の成立自体が歪なのだ。

 それでもこの花の月光に咲く姿を見て撮ってみたいと思う。月光に透ける桜は人の肌の色にもっとも近い。

 しかしここは本当にあの見知った寺院の境内なのだろうか。記憶も画像の記録も、過去にみた風景と噛み合わない。輪郭は似ているのにぴたりとはまることのないジグソーパズルのようだ。

 コンディションは悪く、撮影の腕は三流で、機材は未知数。撮ろうとした桜の姿は写真として見劣るどころか得体の知れない曲がり方をしている。

 花はもっと白くなかっただろうか?私の思い込みだろうか、あそこは花のための劇場だったのだろうか。

 花は来年も咲いているだろう。人間がみようがみまいが、寿命の尽きるまで。


今日の英語:Lost

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