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佐野元春 & THE COYOTE BAND『今、何処TOUR 2023』東京国際フォーラム 2023.09.03.

当初、このツアーが発表されたときは東京公演がファイナルとして組まれていた。途中で元春自身のコロナ感染があり、その振替と追加公演で、結果的に東京以降も4本が追加された。しかし、国際フォーラムでは収録用カメラが入り、公演終了後には公式以外にメディアからライヴ・レポートが発表されたことからも、実質的にファイナル公演としての位置づけだった。それに相応しく、ここまでの旅で固まったバンドの演奏とステージ演出は素晴らしい効果をあげていた。僕は前半の名古屋公演を観たのだが、音はもちろん、映像も手が加えられていたように感じたし、明らかに全体の構成がブラッシュアップされていた。特にアルバム『今、何処』の曲は演奏と映像でひとつの作品として提示されており、実に聴き応え、見応えがあった。

元春がゲストのトリを務め華をそえた2019年のARABAKI ROCK FEST、the pillowsの30周年を思い出す。東北の夜空に響く元春のロックン・ロールが最高だった。

最近、僕の目に入るファンによる元春のライヴの評価は「COYOTE BAND以降の作品だけで構成され、80~90年代の曲を演奏しなくても今の佐野元春は凄い」といったニュアンスの表現が目立つ。佐野元春はバリバリの現役であり、しかも作品を出し続けている人である。その時々のライヴが新作中心になるのは考えてみれば当然だ。多くのバンドやソロ・ミュージシャンが新作を発表し、それを持ってツアーに出ていたが、以前なら当たり前だったこうしたことが、なかなか出来なくなっている今の時代…の中での、新作を軸にした佐野元春の活動を思えば、こうした評価も納得できる。でも、COYOTE BANDと共に演奏される80~90年代の元春クラシックスの素晴らしさは、きっと誰もが納得しているはずだ。COYOTE BANDでこそ、過去の代表曲を演奏すべきだと僕は強く思う。佐野元春 & THE COYOTE BANDが演奏すれば、いつの時代の曲も、すべてが今になるはずだからだ。例えばこの日のアンコールで演奏された「SWEET16」。” 佐野元春はロックン・ロールなのだ ” ということをあらためて思い知らされた。きれいにまとまったアンサンブルなんて無用とばかりのCOYOTEたちによる乱暴なロックン・ロールの何と美しかったことか。エンディングの、まるで煽られたかのような “ I'm gonna be with you tonight!” という元春のシャウトには電流が走った。最上級のかっこいいを進呈する。

10代のいつかきっと 20代のいつかきっと という思いを込めてかいた曲
何十回 何百回と歌ってきて僕も年齢を重ねるうちに
30代には30代のいつかきっと 40代には40代のいつかきっと
50代には50代のいつかきっと があるんじゃないかと思い始めている
そして何よりも僕は希望についての歌をうたいたい

おそらくファンのあいだでも印象的かつ広く知られているであろう、かつてのMC。曲のイメージを決定づけるこのMCの後で歌われた “ 希望の歌 ”。僕自身もライヴで聴くたびに、その時期ならではの個人的な “ いつかきっと ” を思い巡らせながらふれてきたが、この夜は違った。その理由は、やはり演奏前の元春のMCである。

僕らは今
大瀧詠一もPANTAも清志郎も坂本龍一もいない時代に生きている
個人的にはポツンとした感じ
彼らの新しい曲が聴けないのは残念
でも僕はまだこうして続いている
彼らが遺してくれたものを忘れないように
よかったら一緒に歌ってください

いわゆる同世代的な横の繋がりは少ない元春だが、それでも間違いなく仲間がいなくなった寂しさを感じているはずで、そんな思いに動かされてのMCだったのではないか。確かに “ 希望の歌 ” だったと思う。思うけれど、これまでとはまったく異なっていた。歌詞にある “ 唄 ” “ あの頃 ” “ 君 ” などが、まったく別の意味を持って僕に届いた。というか、僕はそう聴いた。そう聴かせる演奏と歌だった。いなくなった人の新しい音楽はもう聴けないけれど、彼らが遺したものを忘れないように…と、まだ続いている元春自身が引き受けたかのように、何かを僕たちに伝えようとしたのかもしれない。それには希望の歌…「Someday」…が相応しかったのだろう。実際に演奏を聴いているあいだ、とても個人的なものではあるが、僕は大切な何かを思い出していた。あの場には似たような人も少なくなかったに違いないと信じている。

ライヴを締めくくったのは「アンジェリーナ」だった。43年前のデビュー曲が瑞々しさを失わず、僕が聴いたときの衝撃と感動もそのままで、こうして今もライヴのハイライトで演奏されている。こんな人は佐野元春しかいない。

野茂との交流は継続中のようだ。この日のライヴはWOWOWで放送されそう。

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