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ガード下のオイディプス - スフィンクスの謎解き すみだパークシアター倉

開演まであと10分前ほどになった頃、串田和美さんがふらっと出てきた。僕は単に様子を見に来たのかな…くらいに思ったし、客席に向かって " まだ始まらないよ " と言いながら、会場の近所が運河だったことや倉庫で演劇をしたいと思っていたということ、そして客席に貼られた劇団自由劇場のこけら落とし公演『イスメネ地下鉄』のポスターを前に当時の話をしてくれた。まだ客入れ中だったし、ほぼオフ・マイクなので、客席すべてに話が届いていたわけではなかったと思うけれど、リラックスした時間が流れ、それなりに緊張していた開演前の気持ちがほぐれてきたが、ふと時計を見ると開演時間を過ぎていた。大丈夫なのかな…と思ったら、案の定スタッフが出てきて " 串田さん…(時間です) " と声をかけた。

こんな感じで始まったのだけれど、終わってみれば、あれは串田さんが気を利かせてくれたのではなく、あらかじめ決められた演出だったのかもしれない。僕はこの日しか観劇しないのでわからないのだけれど。

1966年劇団自由劇場『イスメネ地下鉄』のポスター

すみだパークシアター倉という会場はもとが倉庫。客席の前はもちろんステージなのだが、いたってシンプルで、これといったセットはなかった。その奥…客席から見た正面が倉庫の扉となっていて、開演前はずっと開け放たれていた。外を通る人の姿も丸見えという独特な開演待ちだったが、実は開演後もそのままで、串田さん以外の7人の演者が扉の向こうから入ってきて、何もなかったステージに舞台をセットし、いつのまにか始まっていたというオープニング。もと倉庫の会場を上手くいかした演出から引き込まれた。

これまでも串田さんの舞台で何度か音楽を担当したDr.kyOnは、今回は演者としても出演。俳優としてのkyOnを観るときがくるなんて思ってもいなかったが、演技とセリフ…特に「セリフが飛んだらどうしよう」などと、何故か上から目線で終始ドキドキしながらもkyOnの俳優ぶりを堪能した。

ギリシャ神話に疎くても問題ない。ミュージカル的な場面も多く、音楽劇としても楽しめる。実は僕が座った席は最前列。まさに目の前の至近距離で8人の演技を見つめることとなった。全員がほぼ出ずっぱりなので目とアタマの置き所に苦労したが、贅沢な2時間だった。過去に倉持裕が演出した舞台『磁場』や『鎌塚氏、舞い散る』などで観ていたこともあって、観劇前に注目していた大空ゆうひは期待通りの安定感だったけれど、初体験の串田十二夜の、軽快かつ熱のこもった演技には目を奪われた。

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