仲井戸"CHABO"麗市 SOLO LIVE『COVER-SONGSを演る。3日間』南青山MANDALA 2023.06.23.
カヴァーだけが歌われるチャボのライヴはこれまで何度も開催されてきたけれど、そのどれもが音楽に対する愛情に溢れた感動的なものだった。『COVER-SONGSを演る。3日間』とタイトルされた、コロナ禍以降のソロでは初の有観客ライヴ。初日を観た。
カヴァーといってもすべて独自の日本語詞をのせるのが仲井戸麗市流である。しかも、オリジナル曲で歌われている内容からインスパイアされているとはいえ、まったく異なる意味にしていることが少なくない。歌詞にはそのときのチャボの思いや想いがダイレクトに反映され、かつ、取りあげられた曲への思いや想いも加わっているから、単なるカヴァーを大きく超えた曲に生まれ変わる。さらに、練り上げられたオリジナルとは異なり、これ以上ないシンプルさでテーマを歌うものになる。しかし、そのシンプルさゆえに、胸を打たれるのである。
10代の頃、僕がRCサクセションに夢中になっていた理由のひとつは、当時の清志郎とチャボが自分を肯定してくれたことだった。誰もが理解できる簡単な言葉で、まるで自分の気持ちを代弁して歌ってくれているかのような彼らの曲は、若き僕にとっては “ 好きな “ というだけではなく “ 必要な “ 曲だった。そんな当時と似たような思いを、とっくに10代を過ぎた今の僕にも感じさせてくれるのが、チャボのカヴァーなのである。
中には即興で作ったようなC調なものも少なくないけれど、実はそんな歌詞にこそチャボらしさが出るのも特徴だ。特に中学や高校のときに仲井戸少年が組んでいたバンドが演っていたと紹介される曲にはその傾向がある。思いの丈が歌詞になったそれらの曲は、適当であればあるほど伝わってくるものが大きい。少なくとも僕にはそうだ。この夜に歌われた中ではストーンズの「アンダー・マイ・サム」が白眉。チャボのバンド愛を感じさせてくれるのと同時に、僕自身の音楽体験を思い浮かべることができるのだから、もう単なる歌詞ではないのである。
ほぼ新ネタはないセット・リストだったが、僕にはそれがよかった。コロナ前にその曲を歌っていたチャボと聴いていた自分の様々な場面が頭に浮かんできたからだ。その曲が歌われた会場の空気や、自分の五感がふれたその時々の仲井戸麗市をハッキリと思い出すことができ、感動的だった。チャボにも僕たちにもそこから長い時間が経っているという当たり前のことと同時に、その時間は無駄ではない…無駄にしてはいけない…無駄なはずがない…ことを実感した。だってチャボも僕も、今、確かにここにいるのだから。
p.s.
いつからだろうか、土曜日におこなわれるライヴでは定番だったグリンの「今夜は映画に」をチャボは演らなくなった。特に理由は語られないし、もちろん語らなくてもいいのだけれど、数あるカヴァーの持ち歌の中でも、僕はいちばん馴染みのある曲だし、チャボ自身もおそらくカヴァーとしてでなく自分の曲として歌ってきたはず…と思っていたので不思議だった。
嬉しいことに、それがこの夜、復活した。明日が土曜日…という理由で。
新宿ピカデリーだった。