中島フミアキDEBUT43rd "RESPECT” THUMBS UP 2024.11.03.
中島フミアキのデビュー43周年ライヴ。ゲストにチャボが出演するので足を運んだ。このライヴに僕が興味を持った大きな理由は、1983年に発表されたダンガン・ブラザース・バンドのアルバムに、中島フミアキと仲井戸麗市の共作が収録されていて、その曲を気に入っていることがある。
共作を含めて、チャボは他人に提供したものに佳曲が多いというのが僕の持論。今回のその曲…「KISS,KISS,KISS」もそれに漏れず、名曲と言い切ってしまっていいという評価が僕の中で成されている。41年の長い時間を経て、二人による演奏を聴けるかもしれない。
結論として「KISS,KISS,KISS」は演奏されなかったが、こんな僕だけの期待なんて関係ないと思える別の魅力に溢れていた、実にいいライヴだった。
1部はアコースティック、2部はバンドのエレクトリックなセット。前者に白鳥英美子と小室等、後者は湯川トーベンと仲井戸麗市がゲストで加わる構成。中島フミアキの弾き語りとバンドが楽曲をしっかりと聴かせる演奏で客席を温めたところでゲストとのセッションが披露されるのだから、自然とステージに引き込まされてしまう。ゲストのトップである白鳥英美子は「或る日突然」をバンドとセッションした後、「誰もいない海」を弾きがたる。小室等は「だれかが風の中で」を歌い、ノン・マイクで「死んだ男の残したものは」を届ける。湯川トーベンは自分の曲を歌わずベーシストに徹していたが、その佇まいから演奏を含めてかっこよかった。仲井戸麗市は古井戸し、RCサクセションしていたのが意外。しかし、バンド編成でTHUMBS UPの空間で聴くRCは特別なものを僕に与えてくれた。
「ポスターカラー」は中島フミアキ(加奈崎芳太郎役)との古井戸。実はエンディングで歌詞が飛んでいたのだが、" 早く帰りたい " チャボはその点を指摘しながら " 2小節ぶん帰る時間が遅くなった " とMCで笑わせる。上手い。実にチャボらしい。
その後は「君が僕を知ってる」「いい事ばかりはありゃしない」「雨あがりの夜空に」をバンドで演ったのだが、いきなりオリジナルのDのキーで「君ぼく」が始まった。しかもバンドで。あらためて言うまでもなくRCサクセションは個人的な最重要バンドだが、常日頃からそれを意識しているわけではない。しかし、何らかの…そして、ふとしたきっかけで僕の目の前に現われることがある。この日の「君ぼく」はまさにそれで、オリジナルのキーでバンド演奏されたことで、細胞のひとつひとつにまで染みこんでいるRCサクセションが顔を出したのだ。イントロの1小節にも満たない一瞬で涙が出そうになった。
チャボのライヴでは定番の「いい事ばかり」も「雨あがり」も、バンド演奏で披露されることで伝わってくる情報量の多さは、たとえ演者がチャボであったとしても、ギター1本のソロとは比べものにならない。特に「雨あがり」は中島フミアキ・バンドのギタリスト柳沢二三男とのツイン・ギター編成となったことで僕にとって奏効していた。間奏。いつものチャボのギターに柳沢二三男がソロをかぶせたとき、小川銀次がいたときの「雨あがり」を彷彿させて身体中がゾワッとした。現在、いろいろなライヴで様々なセッションを体験するようになった「雨あがりの夜空に」だが、そこにチャボ以外のギタリストがいたとしても、銀次がいたころのヴァージョンで演奏されることはまずないだろう。いや、おそらくない。しかし、僕の中には1980年までの小川銀次と仲井戸麗市のRCサクセションは思いや想いだけでなく音としても、今もこれからも存在し続ける。たとえ一瞬かつ錯覚であったかもしれないとしても、10代の特別な時間まで戻らせてくれた「雨あがり」を聴けただけでも、このライヴの価値が僕にはあった。
終わってみれば、開催されたライヴのテーマとはまったく別のところに持って行かれてしまったが、冷静に全体を振り返っても、いいライヴだった。アンコールの「花はどこへ行った」。マンドリンを弾くチャボが浮くことなく、そこにいるのが不思議だったが、いいシーンだった。