東京で生きるのだ(京子姉さん編)

居酒屋「紫蘇の実」入り口はすりガラスの引き戸で中は見えない。思い切って引き戸をガラガラッと開けた。中はカウンターと小上がりの座敷が二つ。女将さんの「いらっしゃい!」と言う声にホッとしてカウンターに案内された。お客さんはカウンターに2人 私はその隣に案内された。瓶ビールとエイヒレを頼んだ。隣の2人の客は連れのようで ひとりは60過ぎくらいで もうひとりは30代半ばと言った感じだった。私のすぐ隣が30代半ばの人で その人の話がとても面白く 聞くともなく耳に入ってくるその会話に 私はクスクスと笑ってしまう。
そのおじさん 今で言うところの 柔らかい感じで お姉言葉のように思えた。おじさん 私の方にも興味を向けてくれたのか 「ごめんなさいねお耳汚しな話を聞かせちゃって」と言いながら私のグラスにビールを注いでくれた。そのビールの注ぎ方が神技で いつ見ても私のグラスはビールが満杯になっていた。まるでビールのわんこそばのようだった。どれくらい時間が経っただろうか 気がつけばおじさんの隣の60過ぎの初老の男はいなかった。先に帰ったようだ。私はさっき知り合ったばかりのおじさんと2人っきりで話をするようになった。いろんな話をした 私が上京して間もない事 仕事もやっと見つけた事 すぐ近くのアパートに住んでる事。おじさんの話も聞いた。この店の上の階に部屋を持っており いろんな国の言葉の通訳の事務所を経営している事 おじさんはフランス語が得意で テレビの番組でフランスのシャンソン歌手の通訳として出演したことがある事 写真も見せてくれた。そんな経歴とは無関係なほど おじさんは肌が浅黒く 髪はパンチパーマで ぱっと見はトラックの運ちゃんのように見えだ。わんこビールをどれだけ飲んだだろうか 酔いはかなり回っていた。気がつけば女将も私の隣に座り 出来上がっていた。おじさんが私に「もう一件行こうか?」と言って来た。楽しかったので私は「はい」と答えた。
店を出てすぐにタクシーに乗った。「池袋まで行ってよ」とドライバーに告げ 車は走り出した。その道中でおじさんか私に「もう気づいてるかも知れないけど 俺は女に興味はないんだよ」と言いながら私の太ももに手を伸ばす。
続けて「ちょっと触らせてくんない?」とさらに手が伸びて来た。いやいや 女性の経験もさほどないのに 先にそっちの経験はナッシングだった。丁寧にそれを告げると おじさんは笑いながら「君順応性あるよ すごいよ」と褒めてくれた。あまり嬉しくなかったが おじさんは「もし俺がすごく悪い奴だったらどうするのさ?」と尋ねたので私は「その時はすみません おじさんを張り倒して逃げます」と答えた。そうこうしていると車は池袋北口に到着した。車を降りると あるビルの地下のお店に案内された。店の名前は「欽ちゃん」だったと思う。
とても薄暗い店で 真っ暗のなか 各テーブルに豆球ほどの灯りがあるだけだった。
私たちが店に入るなり スタッフであろうお兄さんが「あーら京子姉さん❗️お久しぶりじゃないのよん‼️」京子姉さん⁇
頭がパニックならなりそうだった。
取り敢えずカウンターに案内され ビールを飲み始めた。暗闇に目が慣れて来て辺りを見渡すと 大勢の客がいた。大物俳優もいた。
それぞれのテーブルで男同士がキスしたり イチャイチャしてるではないか‼️ホモの店だ。
初めての異空間に私は言葉を失った。
カウンターのママ(男だが)私を見て「あら可愛い子ね😍どこで見つけたのよ京子姉さん?」
また出た京子姉さん⁇
そう このおじさんが京子姉さんだった。
京子姉さんが「この子はそう言うんじゃないんだよ」と説明してくれた。ママが「そうなんだこの子のっけなのね」と言うので私が「のっけって何ですか?」と尋ねたら 「やっぱりのっけだわ」と返された。どれくらい滞在しただろう時刻は1時を過ぎていた。
京子姉さんが自分はこれから賭場で遊んで行くから 君はここからタクシーで帰りなさいと10000円札を手渡してくれたが この人に借りを作ると後々面倒な事になりそうと思った私は 丁寧に断り 店を後にした。
不思議な体験をした 明け方まで眠れなかった。朝になりいつものように仕事に行き いつものようにアパートにもどる。興奮がまだおさまっていない私は 好奇心でまた「紫蘇の実
」に行ってみた。その日は店が満員で入れそうになかった。女将もひとりでキリキリまいの様子だ。仕方なく諦めて帰ろうとした時 座敷から私を呼ぶ浅黒い顔のおっさん。京子姉さんだった 私は昨夜のお礼も兼ねて 座敷に近寄り「京子姉さん 昨夜はごちそうさまでした とても楽しかったです ありがとうございます」と言うと 京子姉さんの顔がマジ顔になり「馬鹿野郎ここで京子姉さんって呼ぶんじゃねえ‼️」 叱られてしまった。
その後は京子姉さんといろんな話をした。気がつけば他のお客さんはいなくなり 女将が自分のグラスとビールを持って3人の酒盛りが始まった。女将は昨夜私がすんなり京子姉さんと出て行ったから てっきりカップル成立したと喜んでたらしい。私がそんな事ない私はノーマルだと言うと 半ば呆れたように 「そうだったの?もしあんたがホントに嫌がったなら 私は体を張ってでも止めたあげたわよ」頼もしいお言葉を頂いた。
そんなこんなで京子姉さんが友達に加わった。
続く

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