杉の木から生まれた布。上勝町のローカルファブリック
先日、徳島県木頭地区で、楮(こうぞ)の木の繊維を使った太布を見学した後、行動を共にしていたメンバーから「今度、上勝町で杉の糸を作っている人と会うんだ」と聞いて、ご一緒させてもらうことになった。
楮の次は、杉の木。
最近、植物や木から生まれる自然布と出会う縁が、不思議と繋がっていっているように感じる。
徳島県上勝町は、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」をした町として近年注目を集めている地域だ。「ゼロ・ウェイスト」とは、「無駄、浪費、ごみをなくす」という意味。
出てきた廃棄物をどう処理するかではなく、そもそもごみを生み出さないようにしようという考え方を指す。
街に住む人々は、町の中心にあるゴミステーションに、ゴミを持っていき、13品目45に分別する。生ごみを捨てる場所はなく、各家にコンポストがあり自宅で処理をする。そんな環境にやさしい取り組みを推進する町に、一度訪れてみたいと思っていた。
徳島市から約2時間車を走らせて、緑多い山道をくねくねと上がっていくとたどり着いたのが、上勝町のファブリックブランド「KINOF」さんの工房。
中に入ると、代表の杉山久実さんが迎えてくれた。中は、ログハウスのような木に囲まれた空間で、糸や草木染めされたファブリックなどが並ぶ。自然に囲まれて、思わず気持ちが和んでしまうような空間だった。
そもそもなぜ杉の木を布にしようと考えたのだろうか?
杉山さんによると、町内に杉の人工林がたくさんあり、森が荒れたり、倒木の危険性などがあることで、どうしようと頭を悩ませていたのだとか。そんな折に、杉が繊維、つまり布にできることを知り、地域の布、ローカルファブリックを作れたらいいねという話になったのだとか。
上勝町は町の約9割が山、その中でも当時の国策で植えられた杉の木が大半を占めていた。そんな杉を上勝町を象徴する木として捉え、「木の布 KINOF」は生まれた。
また、上勝には川や滝があり、水が豊かな場所でもあった。夏には川遊びをしたり、山の水で顔を洗ったり、水道ではなく水を引いているなど生活の身近なところに水があった。山の恵みから育まれた水で濡れた手や体を、地域でできた布で拭くのがいいよね、というアイデアから、最初のアイテムは水回りのものをという方向性で固まった。
杉の布は、軽くて乾きやすいことから、ハンカチやバスタオルなどに最適な素材でもあった。日照時間の短い山間の家では、洗濯物が乾きにくいため、地域で使う布としても喜ばれた。
杉の木がどうやって糸になるのか、その工程も教えてくれた。
杉の繊維は、木の中では長い方だけれど、糸として成り立つには短いため、麻を混ぜてチップ状にするのだとか。その後、釜で蒸し上げるとチップが解けふわふわとした繊維状になり、最終的には薄い紙に仕上がるのだそう。
その紙を割いて、捻っていくことで、細い細い糸になる。
薄い紙を見て「あぶらとり紙みたいですね」と言ったら、「杉には油を吸着する性質もあるんですよ」と杉山さん。杉が適度に油を吸収するため、石鹸をつかわずに入浴するときにボディウォッシュタオルやキッチンスポンジがおすすめだとか。
その上、紙でできていることから、ボロボロになって捨てる時には、土に還りやすい。まさにゼロウェイストの町にふさわしいアイテムのように思える。
「まだ、杉が布になることが知らない方も多くいますが、工芸品ではなく日常遣いのものを作りたい」と杉山さん。
ちなみに、杉の学名は「Cryptomeria japonica」。訳すると「日本の隠れた財産」 。建材としては用いられない間伐材を杉の布にすることで、森に光が入り、なおかつ生活を潤す日用品にもなる。杉山さんのブランド「KINOF」から、何かと問題視されている杉が、日本の財産として活用される道筋が見えてくるように感じた。
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