見出し画像

新しい家族のカタチを想う

一族で集まると、ああ、現代社会の縮図がここにある、と思う。
たとえば私の実家で集まる時、メンバーは80代の両親、姉夫婦と姪っ子、私と夫の7人だ。
姉夫婦も私も50代で(夫は10歳年下なので40代)、20代の若者は姪っ子1人となる。

この日本では、2025年には5人に1人が75歳以上の後期高齢者。さらに65歳以上も3人に1人だとか。
「これからの高齢化社会では20代1人が高齢者を4人支えなければならない」という話も聞いたことがある。一族の集まりはまさにその縮図のようで、姪っ子に申し訳ないような気持ちになる。

夫の一族の集まりでも同様で、若者(10代)は甥っ子1人しかいない。
友達のことを考えても、下に当てはまる人が結構な割合でいる。
・結婚していない人
・結婚していても子どもがいない人
・本人は結婚して子どもがいても、兄弟姉妹が未婚、あるいは子どもがいない人
そういう人の一族は、うちのように、どうしても10代や20代の若者が少なくなる。

自分が子どもだった頃は、祖父母の家に一族が集まると、私と同世代の子ども(いとこ)がうじゃうじゃいた。両親の世代は兄弟姉妹が多いということも関係しているが、それにしてもこの差は大きい。中年と高齢者の中にぽつんと1人いる姪っ子を見ていると、なんだかなぁと思う。
そうは言っても、うちには子どもができなかったのだから仕方がないのだが。

自分に子どもがいない分、私は姪っ子や甥っ子のことをとても可愛がっている。特に姪っ子は血が繋がっていることもあり、生まれた時から可愛くて仕方がなかった。赤ちゃんの頃は姉から写真をもらって、一人暮らしの家に飾っていたほどだ。昔は洋服やおもちゃなどもたくさん買ってあげたものだ。

そんな彼女もこの春から社会人3年目。
一族で最もハイスペックな経歴を持ち、今は大手広告代理店に勤め、東京でバリバリ働いている。
年に1、2回しか会わないが、会うたびに「大人になったなぁ」と思う。
シーシャ(水タバコ)が趣味だったり、大きなバイクに乗ったり、一人旅を好んだりすることは、最近知った。
このような若い世代と会話をすることがほとんどないので、姪っ子と話すのは新鮮だし楽しい。また、そう感じている自分を顧みて「あー、私も歳とったなぁ」としみじみ思うのだ。

さて、今年のお正月は我が家に一族が集まった。姪っ子もやって来た。
いろいろな話をしている時、姪っ子が「もしかしたら来年か1、2年後くらいに結婚するかもしれん」と言い出した。
「ええっ!」と驚く私に、慌てて「まだ具体的にいつとか決まってるわけちゃうよ。ただ、そのうち結婚する人はいるっていうこと」と説明する。
姉夫婦はすでに話を聞いて、相手の男性にも会ったことがあるという。
「どんな人?」と聞くと、姪っ子はこう言った。

「引かんといてや~。前からお父さんみたいな人が理想やってんけど……、お父さんみたいな人」

お父さん(お義兄さん)のことが大好きなのは知っていたが、本人を前にしてこういうことをズバッと言えるのがすごいなぁと思った。これは現代っ子だからなのか、姪っ子だからなのか。
お義兄さんも聞き慣れていたのか、これが「特別な告白」というわけでもないようで、大きなリアクションもない。

また、姪っ子は「お母さん(私の姉)がこういうタイプやん?お母さんみたいな人と結婚できるのって、お父さんみたいな人だけやん?私もどっちかといえばお母さんタイプやから、お父さんみたいな人じゃないとあかんと思うねん」とも言う。
お母さん(姉)=わがまま、自己中心的、好奇心旺盛、活動的
お父さん(義兄)=成分の8割が優しさ、ぼんやりしているように見えて仕事はできる、誰もが「いい人」という

そこまで聞いたら、私も参加せずにはいられなかった。
「わかるわ~!私もそっち(姉と姪っ子)タイプやろ?だから結婚したのがこの人やん?」
夫を指すと、みんなが笑って「うん、うん」とうなずいた。
夫もお義兄さんと同じようなタイプで、母はよく「うちの娘は二人ともいい人と結婚できて、本当に幸せやね」と言う。
姪っ子も結局、お義兄さんや夫のような人を選んだのね、と思った。
でも、それ正解!絶対幸せになれる。
「いい人なんやね」
「そう!」
「人畜無害って感じやろ?」
「ん?それよくわからんけど、たぶん」
海外暮らしが長く、帰国子女だった姪っ子は、いまだに四字熟語に弱いのだ。

「写真見せてよ~」と、今度は外見が気になって頼んでみると、スマホをいじりながらもなんだか渋る。
「めっちゃ優しくていい人やねんけどな、見た目はちょっとチャラいねん。おじいちゃんとおばあちゃんが見たらびっくりするかもしれん」
そう言って見せてくれた写真の「彼」は、ロン毛、ピアス、薄い色付きメガネ、あごヒゲ。
確かにちょっとチャラい。でも、「LDH系でカッコいいやん」と、私や夫には好評だった。私にしたら、どんな人でも姪っ子がいいと確信して選んだ人なら、それだけで大歓迎なのだけど。
両親(おじいちゃん、おばあちゃん)にも見せながら「こんな見た目やけど、中身は全然ちがうねん。優しいし真面目やから、ほんまに!」と何度も言っていた。両親は特に批判もせず、まあいいんじゃない?という感じで微笑んでいた。

それから数日後、姉からラインが来た。
お正月休みの間にその「彼」が東京から大阪へやって来て、うちの実家で姉夫婦と共に集まったのだという。
「おじいちゃんとおばあちゃんにも彼を紹介したかった」という姪っ子を愛しく思った。両親にとってはたった一人の孫。自分でもその重みは理解しているようで、「良い孫」をちゃんとやってくれている。
「いとこ」もつくってあげられず、「孫」の役割をすべて担わせてしまってごめんね、とたまに申し訳なく思う。自分がこれから歳をとってひとりぼっちになったとしても、絶対にこの子に迷惑をかけないように生きていかないといけないな、とも。

姉からのラインには、その時の集まりの写真も添付されていた。
「おじいちゃんたちに会うから、見た目を変えてきてた!」とのこと。
なになに?あのLDH系のチャラ男がどうなってるんだ?と思って写真を見てみると、

……ロッチ中岡?

そこにはお笑い芸人のロッチ中岡そっくりな人が写っていた。
茶髪ロン毛 → 黒いロン毛
ピアス → はずす
色付きメガネ → 黒縁メガネ
あごヒゲ → 剃る

そうすると、LDH系のチャラ男がロッチ中岡に変身!というわけだ。
姪っ子が主張していたように、今度こそ「真面目でいい人」そうな笑顔がそこにあった。

両親と姉夫婦と姪っ子とロッチ中岡が写った集合写真を眺めながら、私はなんとも言えない幸せな気持ちでいた。
写真のバックは、子どもの頃から見慣れたいつもの実家だ。
写っているのも、親しみのある家族の顔、顔、顔。
だけど、その中に一人、新しい顔があった。
みんな笑顔で楽しそうだった。
ああ、これが「これからの私の家族」なんだな、と思った。

私と夫はちょうど温泉宿に行っていて、集まりには参加できなかったけれど、そのうちこの集合写真の中に、私と夫の顔も入るのだろう。
私は何度も何度もこの写真を見た。
自分の顔はないけれど、自分が夢見てきたような「家族」のカタチがそこにあるようで胸がつまった。

決して仲の良い家族ではなかった。
子どもの頃から家族団らんなど経験したことがない。外食も旅行もない。
理由はここには書けないが、何度も家庭は崩壊しかけたし、私は自分で稼げるようになったらすぐに家を出た。「家族」なんてものを信じていなかった。何の思い入れもなかった。
だから、若い頃は今のようにみんなで集まって笑い合える日が来るなんて思いもしなかった。憧れだった「家族写真」に写る自分を見ていると、今でも不思議な気持ちになることがある。
バラバラだった家族をつないでくれたのは、他人だったお義兄さんであり、夫であり、そして何よりも姪っ子の存在だった。
だから、この3人には感謝してもしきれない。
「思い入れがない」と言いながらも、結局のところ、誰よりも「家族」を渇望してきたのは私だ。できるなら、子どもの頃の淋しかった私に「大丈夫だよ、ちゃんと家族になれる日がくるよ」と言ってやりたい。

近い将来、姪っ子は結婚して、正式に「彼」も家族になるのだろう。
私も早く「彼」に会いたいなぁと思う。
数年後には姪っ子に子どもができて、集合写真にまた新しい顔が増えるかもしれない。
そんな新しい家族のカタチを想うだけで、私は幸せになる。

いいなと思ったら応援しよう!