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40年来の親友と、紫陽花を見に行った日
「善峯寺へ紫陽花を見に行かない?」
親友のKちゃんからそんなメールが届いた。
Kちゃんは私にとって1番古い友だ。小学5年生からの付き合いだから、もう40年になる。
家から5分のところに住んでいるのに、会うのはなんと2年半ぶり!
なぜなら、彼女が介護の仕事をしているからだ。コロナ禍はこちらから誘いにくく、元々マメな人間ではないKちゃんから誘ってくることもなかった。
時々メールはしていた。
そして、コロナも落ち着いた今、ようやく会えることになったのだ。
お酒が好きで、いつも夜の街に繰り出していたから、昼間の誘いが意外だったが、遠足みたいでワクワクした。
善峯寺は家から車で30分ほどで行ける京都の山奥の寺だ。長い松の木が有名で、紅葉も美しいから、若い時は2、3回訪れたことはあったが、紫陽花があるとは知らなかった。それに久しぶりだ。
当日、朝11頃、家から5分のところにある彼女のマンションの駐車場に着いた。
すでにKちゃんは車で待機しており、私の姿を見ると近づいてきて車を停めた。
すぐに助手席に滑り込む。
「おはよう」
「久しぶり」
「ようやく会えたな」
「ははは」
挨拶はそれで終わり。
車を走らせると、すぐに昔と変わらない時間が始まった。
何の気負いもない。安心する。子供の頃から変わらない、信頼できる友。
2年半ぶりとは思えない。まるで昨日までも会っていたみたいだ。
それでもやっぱり2年半の近況報告がたまっていたので、道中はそれを吐き出すのに忙しかった。
彼女はナビもほとんど見ずに運転する。何度も通い慣れた道のように。
「よく行くの?」と聞いたら、「うん、年に何回か」という。
知らなかった。いつの間に寺好きになったのだろう。
あっという間に善峯寺に到着。平日昼間だというのに、駐車場はわりと混んでいた。みんな紫陽花が目当てのようだ。そんなにすごいのか?
紫陽花苑に向かうと、「わぁー!」と自然にこえがでた。これは見応えある!
急に開けた空間が現れ、山の斜面一面に色とりどりの紫陽花が咲いているのだ。
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平地に咲く紫陽花とは違い、斜面を見上げる構図が新鮮で、とにかく見惚れていた。
紫陽花って、なんて無口な花なんだろうかと思う。
この日は曇り空でなんとか雨は降らずにもっていたが、梅雨の時季の花だからだろうか、しっとりとした空気や雨にも似合う。
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それぞれの色の個性が映える。
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愛らしい色だ。
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最近はいろいろな寺や神社で見かける
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紫陽花を堪能した後、車に戻り、「どうする?」と何の予定もない2人。
伏見のほうにも紫陽花の神社あったよね、と私が言い、じゃあ行ってみるか、今日は紫陽花祭りじゃーと、エンジンをかける。
そういえば、昔からごくたまに2人でドライブをしたが、いつも行き先は適当だった。
まだナビもないような大昔、紙のマップを見ながらの運転の時、地図を読めない私が横でナビをやったため、どんどん知らないところへ向かってしまったことがあった。
KちゃんもKちゃんで、「間違ってる!」と言うのに、「もうこのまま行く!」と引き返すことをしない。
迷いに迷って半日走り続け、結局辿り着いた場所は、何の目的もない三重県の「津市」だった。
2人で車に乗っていると、どうしてもあの時の珍道中を思い出してしまう。
私が「前にもとんでもないことあったなぁ」と言ったら、Kちゃんもすぐに「あれやろ?」と言い出して、2人で声を合わせて
「津!!」
と笑い転げた。
あの時は一体どこを目指していたんだろう。今となっては2人とも覚えていない。
そんな昔話をしていたら、伏見の藤森神社に到着した。
紫陽花が有名だとは聞いていたが、私も来るのは初めて。
神社なので無料だが、紫陽花苑に入るのには500円必要だった。
2つの苑があり、1つは日陰でしっとりした雰囲気の紫陽花苑だった。ただもう1つはかなり日当たりが強く、残念ながらすでにほとんど枯れていた。
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色もカタチも可愛らしい
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幾重にも重なる花びらがきれい
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これが正解なのか、すでに枯れかけなのか?
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2箇所もめぐり、紫陽花を十分に堪能した。
紫陽花って、素敵な花だなと思う。
淡いパステルカラーが優しく穏やかな気持ちにさせてくれるし、小さな花びらがいくつも集まってできる、まあるい形も可愛らしい。
色もカタチもバリエーションが多いから飽きない。
うちの庭にも紫陽花を植えてみようかな、と思う。
この後、さすがにお腹がすいてきたので、何か食べようということに。
「蕎麦やな」と私。
「うん、蕎麦やわ」とKちゃん。
メニューを決めたはいいが、蕎麦屋がない。
ナビで検索し、3キロほど先の近そうな蕎麦屋を適当に決め、そこへ向かった。
あと少しで着きそうになったとき、「定休日ちゃうやろな」とKちゃん。不安になったので店の名前で検索してみると、定休日どころじゃない。なんと閉店していた。
「閉店」の文字をスマホで見せると、「マジかっ!」と苦笑するKちゃん。
すぐに他の店を探したが、近くに蕎麦屋はない。
結局、烏丸五条まで走ることにした。
えらい街中に来てしまった。こんなとこ、車で来るとよけいややこしいんだ。
店は見つけたけど、専用駐車場がないから路地に入って探す。一方通行も多いから、とにかく店の周りを何周もぐるぐる。
ようやく見つけたパーキングに停めて、蕎麦屋へ入れた。
気づけばもう3時だった。
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蕎麦がうまかったことが救い。
2人ともふらふらで蕎麦をたべて、家路についた。
「津に続いて、また忘れられないドライブになったなー」と笑う。
飲みに行くよりこんな時間の方が健全で楽しいとも思えた。
「またどこか行こ!」と私。
「びわこバレイのほうのなんか、行きたい」
「なんかって、なによ?」
「なんか知らん。調べといて」
そう言い捨てて、私を家まで送り届けると去って行ったKちゃん。
なんか知らんけど、調べとくわ。
またこんな楽しい時間を過ごしたいからね。