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夫の「ギリギリセーフ」は、私の「ギリギリアウト」やねん。

関西弁では「いらち」という。
せっかちで、短気な人のことだ。

私はそれほど自分が「いらち」だと自覚したことはなかったのだが、夫といるようになって「ああ、私はいらちだ」と思うようになった。特に夫の「時間」に関することでは、いつもいらちが爆発する。

夫と付き合いだした時すぐにわかったのは、「この人とは時間に対する感覚がまったく違う」ということだった。彼は、良く言えば「のんびりやさん」、悪く言えば「ルーズ」。

たとえば10時ちょうど発の電車に乗るとしよう。
家のドアから駅のホームまでは自分のペースで歩いて13分。駅までに信号はないが、途中、踏切を超えなければならない。この踏切はほとんどの場合は開いており、閉まっても1~2分で開くが、ごくたまに5分以上も開かなくなることもある。
さて、あなたは10時ちょうどの電車に乗るために何時に家を出ますか?(毎朝ではなく、その日だけの用事なので踏切の開閉は不明)

私は9時45分ではちょっと不安なので、9時40分~43分くらいに家を出る。これなら万が一、踏切で引っかかっても遅れることはないし、慌てずゆっくり歩くことができる。ホームで2~3分電車を待つくらいが安心するのだ。
これが私の思う「ギリギリセーフ」である。

ところが、夫の場合は早足で10分で歩けるので、9時50分に家を出る。踏切に引っかかるかもしれないということはまったく考えない。時間がなくなれば走ればいいと思っているのだ。これが夫の思う「ギリギリセーフ」だが、私にとってはもう走っている時点で「ギリギリアウト」なのだ。

というわけで、私は夫と出かける時、「いらち」が大爆発する。
結婚した当初は夫を急かして「早く!私の足では13分かかるんだから、早く出て!」と自分に合わせて家を出発させようとしていたが、夫という人は、いざ「出発」という時間になってから「ちょっと待って~。財布どこやろ?」とモノを探し始めたり、「ちょっと待って。トイレ行きたくなった」とトイレに入ったりするタイプなのだ。それも、私が玄関で靴を履いている時に、だ。
そうすると、私はもうカーっとなって、「なんでやねん!トイレくらい先に行っとけや!!今まで何分もあったやろが!!」と怒った時にだけ出る乱暴な関西弁でどやしつけることになる。

もちろん、いろんな手を考えた。時間の大切さを優しく諭したり、「私のペースを乱さんといてよ」と、わんわん泣いて訴えたりもした。それでも夫は変わらなかった。
そこで、気づいた。子供の頃から身についたものは、そう簡単には変えられないのだと。

同時に、何かのビジネス書で読んだ「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」という言葉を思い出した。そこで、夫を変えるのではなく、自分がイライラしないような方法を考えて、自分の行動を変えようと決めたのだ。
その結果、私が選択したのは「駅までバラバラに行く」ということ。一緒に出発することをあきらめたのだ。

それからは少し気持ちが落ち着いた。
一度、駅に向かっている途中で近所の友達に会い、「今日は一人?」と言われて、「ううん。S君(夫)と一緒やけど、駅まではバラバラやねん。あの人はあとから走って来るわ。私は走りたくないから駅で集合にした」と言うと爆笑された。
「同じ家に住んでるのに、駅に集合て、あんた(笑)」と。

でも、これしか方法が見つからなかったのだ。
まあ、これはこれで、ホームで夫を待つ間に多少イライラするし、ギリギリで電車に飛び乗られた日にゃー、「もうちょっと早く出たら?」と嫌みの一つも言いたくなるのだが。
そして、そんな嫌味を言ったところで、夫はニコニコして「でも、間に合ったやろ?」と言うに決まっているのだが。

なぜ今日こんな話を書いているかというと、今朝、夫は会社の仲間と7人でバーベキューに行ったのだが、朝からとんでもなくバタバタで、そのことに私は本当にイラついてしまったからだ。

私なら、絶対に、前日から持って行くものを準備してカバンに詰め、翌朝は食材を保冷バッグに入れれば完了という状態にしておく。それでも遅れたくはないので、出発の1時間半前には起きる。
それが、夫は持って行くものの「一部」をキッチンのカウンターに並べていただけで(これも邪魔でイラついた)、いろんなものを車に積んだまま。
「朝、早起きしてやる」と言っていたのに、7時に起きても布団の中でスマホのゲームをしている。「間に合わないよ」と声をかけても「大丈夫」とスマホから目を離さない。

もういいや、ほっとこー……と思い、自分のことをしていたら、8時になって「ブロッコリーってそのまま使える?」と聞いてきた。アヒージョに入れるというので、「茹でたほうがいいかもね」と言ったら、「じゃあ、茹でてー」と甘えてくる。

いいよ、別に。
レンジでチンするだけやし、その労力はいいのよ、別に。
私が嫌なのは「なぜ今頃言うの?」ということなのだ。なんでそんなギリギリに言うの?8時25分に出発だというのに、もう8時やん!

その後も、オリーブオイルがないとか、保冷バッグに食材が入らないとか、これ持って行こうかどうしようかとか、お湯は何で沸かそうかとか、まだごちゃごちゃ言っている。
そのたびに私は「駅前で買えばいいやん」「野菜は保冷じゃなくても大丈夫」「シングルバーナーとシェラカップでいいやん」「いらんかったら置いていきーや」などと答える。
心の中では「なんで、昨日やっとかへんねん!」とイライラが頂点に差し掛かっている。

そんな一通りのやりとりを終えて、私がコーヒーをいれていると、夫は長い間駐車場から帰ってこない。どうやら車に積んでいるキャンプ道具の中から必要なものを取り出しているようだった。時計を見ると、もう出発まで10分もない。夫のことなのに私は落ち着かなくなる。コーヒーも美味しくない。

そして、気づけばもう出発の8時25分は過ぎていた。結局、電車を1本遅れたようだが、それでもまったく慌てる様子も見せず、40分くらいに元気に家を出ていった。

玄関のドアの鍵を閉め、私は大声で叫ぶ。
「大物かっ!!」

あの、時間に遅れることをなんとも思わない性格。
ギリギリアウトなのにギリギリセーフだと思える性格。
何なんだろう……

私はソファに座り、コーヒーを飲みながらイライラを落ち着かせた。

こういう時は、母の言葉を思い出すようにしている。
以前、母に夫のルーズなところを愚痴ったことがあったのだが、母は「それはS君がダメねぇ」と共感してくれたうえで、こう言ってくれたのだ。

「でも、かおりにはそれくらいの人がいいんじゃない?」

はたと気づく。
そうかもしれない。
逆に、私が出発前にトラブルがあって少し遅れた時も、夫は私を急かすということがない。もちろんイライラもしていないし、嫌味も言わない。

とにかく完璧主義で、いつも精神的に落ち着くことがない私だが、夫がいつもバカみたいにのんびりしているので、助かっていることも多々あるのだ。

そう思ったことを心の中で反芻し、うん、そうだなと自分を納得させた。

どんなに好きでも大事な人でも、やっぱり他人だから、一緒に暮らしていると合わないこともある。それをどう折り合いをつけていくかを考える。
夫婦というのはそうやって成長していくのかもしれない。

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