秋を探して、大山崎山荘美術館「舩木倭帆展」へ
誰にでも「お気に入りの場所」というのがあると思う。
それは行きつけの居酒屋やカフェや雑貨屋さんかもしれないし、美術館や図書館かもしれない。あるいは、見晴らしの良い高台やビルだったり、こじんまりとした公園や、駅から家まで帰る途中のなんでもない「小道」だったりするかもしれない。
それは決して「思い出の場所」というのではなく、あくまでも「お気に入りの場所」。何度行っても心地よく、そのたびに気持ちが高揚し、ここが好きだなぁと思う。そして、また行きたくなる。そんな場所。
私にとって、そんな「お気に入りの場所」は、大山崎山荘美術館だ。
我が家から徒歩30分弱。途中、かなり急な坂道を上るので、距離のわりに時間がかかる。
竹林と住宅の間の道を歩いていくと、美術館の入口にあたる小さなトンネルが見えてくる。そこを抜けると、もう別世界だ。
池のある広い庭の向こうに、大正から昭和初期にかけて建築された美しい建物が佇んでいる。
もともとは関西の実業家であった加賀正太郎氏が建てた山荘だが、今はアサヒグループが所有し、美術館として運営している。
山荘そのものも建築物として鑑賞の価値があるが、ここはなんといっても所蔵品がいい。アサヒビール初代社長山本爲三郎が民藝運動を支援していたため、濱田庄司やバーナード・リーチなど民藝に関わる陶芸家たちの作品がたくさんあるのだ。それが、私にとっては何よりの魅力だ。
また、後に安藤忠雄氏の設計で新館が建てられ、そこではクロード・モネの傑作「睡蓮」も鑑賞できる。
興味のある展示の時は入館料を払って中に入るが、そうでない時は建物の中には入らず、庭を散策するだけでもいい。
「山荘」というだけあって、山の中に建てられたその館は豊かな自然の中にあり、四季折々に表情を変える庭も美しい。
▼美術館について詳しくはこちら
先週の日曜日、久しぶりに夫と大山崎山荘美術館へ出かけた。天気がよく、紅葉の時季でもあったから、色づいた山々や庭を見るのが楽しみだった。
そうだ、美術館の入口のすぐ前に大きなドウダンツツジがある。あそこはいつも燃えるように真っ赤になり、本当に美しいのだ。あの紅い色を思い浮かべるだけでも気持ちが高まった。
それに、今は「没後10年 舩木倭帆展」が開催中だった。
7月からスタートしているのは知っていて早く行きたかったが、とにかく夏は暑かった。だから、秋になって涼しくなってから行こうと決めていたのだ。紅葉も見られるし、一石二鳥だと。
ただ、気づいたら開催期間の終了が迫ってきており、慌ててこの日曜日に行くことになったのだが……。もう少しで逃すところだった。危なかった。
子どもの頃、気づいたらもう舩木倭帆氏のガラスの器は実家にあり、その本当の価値もわからぬまま、当たり前のようにそのコップで麦茶やジュースを飲んでいた。
26歳で一人暮らしを始めてからは、自分自身で少しずつ買い集めていき、お皿やボウル、グラスや花器など、いくつかを持つことができた。
舩木倭帆氏のガラスについては、今年の5月にこんな記事を書いているので割愛する。
さすがに美術館に展示されているものは、私のコレクションよりも一段格が上のように思えたが、こんなふうに「作品」として展示されるような作家さんの器が家にいくつもあり、それで普段の食事ができることはなんだか誇らしく感じられた。
また、何より展示されている作品はどれも素晴らしかった。
本当に、唯一無二。
こんなに美しい形状と色のガラスがこの世に他にあろうか。(いや、ない)
見ているだけで何度もため息が漏れた。
一部の展示室だけは「撮影可」だったので、少し撮影してみた。
じっくりと作品を堪能した後は、館内にあるカフェへ。
この展示会にあわせて、リーガロイヤルホテル京都が考案した特製オリジナルスイーツがあるとのこと。日曜日ということもあって来館者が多く、残念ながら2種類あるスイーツのうち1種類はすでに売り切れ。もう1種類も「最後の1つです」と言われて、慌てて注文した。
ここはアサヒ系列なので、カフェといってもビールもいろいろ置いている。夫はビールを飲んでいた。私も以前はここのテラス席で昼からビールを飲むのが好きだったのだが……。
展示会もカフェでのひとときもよかったが、お目当ての紅葉はといえば、今年はイマイチだった。きっと多くの紅葉の名所でそうだと思うのだが、いつまでも暑かったので、紅や黄色に色づく前に茶色く枯れてしまっているものが多かった。中にはまだ緑のものも……。(あぁ、秋はどこへ行った?)
それでも久しぶりに「お気に入りの場所」へ行けたこと、素晴らしい作品が目の保養になったこと、わずかでも紅葉を見られたことで、私の帰りの足取りは軽かった。
次はいつ行こうか。
この日の夕方は久しぶりに何の痛みもない時間を過ごせた。
やっぱり心をわくわくさせることが大事なんだなと思う。それがきっと私にとって何よりの「癒し」になる。