平日昼間の「焼きビーフン」評論家
数年前まで、「焼きビーフン」というものを食べたことがなかった。
なんとなくその存在は知っていたが、もともとインスタントラーメンの類も食べないので、スーパーでも乾麺売場(?)に立ち寄ることがほぼなく、棚に売っているのも見たことがなかった。
ある時、友人たちとの持ち寄りパーティで、親友のFが焼きビーフンを作ってきた。
おおっ!これがあの焼きビーフンか!と、生まれて初めて口にしてみると、なかなかおいしい。
「焼きビーフン、おいしいなぁ。初めて食べた」
そう告げるとFは「えーっ!」とびっくりして、「うちは昔からよく食卓に出てきたよ。焼きそばより多いかも」と言うから、今度は私がびっくりした。
「おいしいやろ?」と聞かれ、素直に「うん、おいしい。今度うちでも作ってみるわ」と答えた。
これが私と焼きビーフンの出会いである。
しかし、焼きビーフンを買うという習慣がなかったため、スーパーに行っても忘れてしまう。
一度、ハッと思い出したことがあったが、その時はどこに売っているか探し出すことができずにあきらめた。
まあ、そのうち出会えるだろうと、そんな気持ちでいたら、買わないまま2、3年くらい経ってしまった。
それが、最近になって、鍼灸に行った帰りに寄ったスーパーの目玉商品売り場で、ついに見つけたのだ。いろいろなものが高く積まれた中に「焼きビーフン」もお得パックになって大量に積まれている。
ここで会ったが3年目(?)とばかりに、1パックを買い物かごへ。
醤油味の焼きビーフン3個に、塩味が1個ついてくるというお買い得商品だった。
帰宅し、夫に「焼きビーフン買ったよ!」と報告すると、「へー、珍しいなぁ。俺もあんまり食べたことないかも」と言う。
夫がコロナ禍以降、基本的に在宅ワークのため、毎日のお昼ごはんに困っていたから、バリエーションが増えてちょうどよかった。
うどん、そば、パスタ、カレー、焼きそば、チャーハンの繰り返しだったので、1つでも新しいメニューが加わることは大歓迎だった。
ただ、その頃、私はちょうど治療を始めたところで、まだ体が薬に慣れず、ほとんど寝たきり状態。夫が昼ごはんを作ってくれることが増えていた。
数日後、「焼きビーフン作ろうか?」と夫。
私も作ったことがないので、最初は自分でやってみたかったが、そんな気力もなく「じゃあ、お願い」と夫に任せた。
「できたよー」
夫の声で布団から這い出て食卓につく。
なんだかすごくおいしそうだ。
「いただきます」と2人で食べ始めた。
おいしい。
なんだこれ、めちゃくちゃうまい。
食欲があまりない私でもするすると入る。食べやすい。
しみじみ思いながら、口に出して言う。
「おいしいねー」
夫もしみじみと言う。
「うん、めっちゃうまい」
しばらく黙々と口に運びながら私が聞く。
「作るの難しかった?」
「ううん、めっちゃ簡単。水入れて蓋して3分」
「えっ、調味料は?」
「ついてるのを入れるだけ」
「めっちゃ簡単やん」
「うん、簡単」
またしばらく黙々と食べる。
「野菜もいっぱい食べられるからいいね」
「うん、いろいろ入れてみた」
「ヘルシーやね」
「うん、ヘルシー」
「麺もね、小麦粉じゃないもんね」
「うん、この麺がまたいい」
また黙々と口に運ぶ。
「おいしいね」
「うん、おいしいし、簡単やし、最高」
「野菜とれるのがいいわー」
「フライパンにもくっつかへんねん」
「へー!それはいいね」
食べる手が止まらない。
「麺もさー、いいよね」
「うん、さっぱりしてるし、食べやすい」
「それにさ……」
もうこのへんが限界だった。
2人でゲラゲラ大笑い。
食べ始めてからずっと「焼きビーフン」がいかにうまいか、素晴らしいかという話を繰り返し延々としているのだ。
それもしみじみと。
こんなに一つの食品について長く語り合ったこともない。
まるで一生に一度の高級料理を食べたかのように、特売の焼きビーフンの魅力を交互に語り合う自分たちがおかしくなって、笑い転げた。
夫婦にしかわからない絶妙な「間(ま)」がまたおかしくて。
こんな何でもないことが、幸せってことなんだろうなぁと、焼きビーフンで思う。
庶民でよかった。
こんな簡単に幸せになれる。
ありがとう、焼きビーフン。
そして、教えてくれた親友のFよ。3年越しにようやく食べたよ。
で、
なんのはなしですか
一度使ってみたかったこの言葉。
コニシ木の子さんが生み出し、noteのまちの路地裏でひっそりと育ち、今や誰もが一度は使ってみたい流行ハッシュタグだ。
私のようなタイプの記事は、なかなか使いどころが難しくて躊躇していたし、この使い方も合っているのかよくわからないが、とりあえず。
コニシ木の子さんとは、私がnoteを始めて間もない頃から相互フォローさせていただいているが、こんな壮大なミッションを抱えて「なんのはなしですか」をやっているとは思っていなかったので、そこにも感動した。
なんにしろ、焼きビーフン、うまい。最高。
50年も知らずに生きてきたことを悔やむ。