死神
散らかる一方のテーブル。床に広がる牛乳のこぼれたヤツ。あの子が好きだったお香を炊いたあと。欲しかった本も無造作に広がってる。
僕はため息をついてソファーに沈む。
こんなままで1日終わるのか…
少し暮れかけたある日。それはおこった。
ピンポーン
チャイムが鳴る。誰だ?大家さんか、あの子か、なんか宅配か?ネットで頼んでないけど。
ダルさしかない体を起こし、インターホンのマイクと喋る。
「どちら様ですか?」
「死神ですぅ…」
?、悪質なイタズラだろう。しかし声は年老いてる感じのおばあちゃんみたいだ。そんな人がイタズラ?認知症か?僕はマイクを切り、再びソファーに向かおうとした。
ピンポーン
また鳴る。軽く頭痛と苛立ちを感じながら、マイクに出る。
「あ、あの死神なんです…いわゆるあの世から来ました…お話があるのでドア開けてくれませんか?」
…。何か話をしたそうだったので、僕は玄関に向かい無言でドアを開けた。
「あのどうも、私死神でしてね、貴方様に伝えたいことがあって来ました」
僕は少し引いた。死神だと申すその相手は老婆で小柄、頭には黒い頭巾を被り、全身は黒の服装。顔もシワシワで、死神とは思えなかった。
「あ、あのね、死神さんって喋るけど、僕の考えてた死神って言うのとイメージが違うし、おばあちゃん、どこか間違えてない?」
死神は喋る。
「イメージはどうであれ、私はれっきとした死神ですよ。今までも数え切れないくらいのお人をお連れしました。まあ…皆さん同じこと喋りますね」
そして続ける。
「貴方様ね、明日!いいですか、明日命が終わります。それを伝えに来ました。明日の夜7時に命が終わります。お迎えに来るのでお忘れなく」
死亡宣告されてしまった。
僕は動揺した。でも何故かこれでいいと思えた。
「…わかりました、お願いします」
僕は明日死ぬ。やりたい事は特にない。もう一度あの香りを嗅ぎたい。あの子を思い出して、僕はお香を炊こうと思った。あの世にサヨナラしたあの子に会えるなら。