幸運を呼ぶ文様、宝尽し:その歴史と意味を紐解く
宝尽くし文様の歴史
器や着物や帯などに描かれる文様の中に「宝尽くし」と呼ばれる、吉祥文様(とてもおめでたい文様のこと)があります。
「○○尽くし」とは、同じテーマのモチーフを集めて文様としたという意味です。”花尽くし”や”貝尽くし”、”動物尽くし”や蝶や鈴虫のような”昆虫尽くし”、”楽器尽くし”など様々あります。これらの宝物は「宝尽くし」としてセットで描かれるだけでなく、それぞれ単独で描かれていることもあります。
宝尽くしの文様を知ることで、今まで「この模様なんだろう?」と思っていたものが解決したり、またこれから手に入れる器などに描かれているのを見つけたら「縁起の良い柄なんだ」と判別できたりしてちょっと嬉しくなりますよね。
宝尽くし文様の由来ですが、もとは中国から渡ってきた文様で、中国の吉祥思想の「八宝(はっぽう)」や「雑八宝(ざつはっぽう)」というものに由来するものです。それが14~15世紀、室町時代頃に日本に伝わり日本風にアレンジされ、現在の宝尽くし文様となったのです。
ひとつひとつに意味や歴史がありますし、図柄が図案化されていて原型を連想しずらいものもありますので、順に見ていきましょう。
打出の小槌(うちでのこづち)
多くの方がご存じであろう「打出の小槌」。有名なのは御伽草子の一寸法師が使ったという話ですね。
七福神の大黒天が手に掲げてもいます。打出の小槌は、振れば体を大きくしたり、食べ物や金銀財宝を出せる縁起ものです。ものを打つことから「敵を打つ」という意味もあるそうです。
丁字(ちょうじ)
「丁字」とは亜熱帯原産のスパイス、クローブのことです。古来中国では花の蕾を乾燥させて香料として珍重しており、日本には平安時代に渡来し、以来、香料としてだけでなく、薬用、染料、丁字油などと様々な用途で用いられ、その希少価値や健康や長寿を連想させることから宝尽くしのひとつになったものです。
江戸時代にはその貴重さにあやかって、商売繁盛を願う意味で屋号に「丁子屋」とつける店が多くあったそうです。時代小説がお好きな方などは耳にすることも多い馴染みの屋号なのではないでしょうか。
金嚢(きんのう・こんのう)、巾着(きんちゃく)、宝袋(ほうたい)
こちらは冒頭で「中国から渡ってき文様を日本風にアレンジ」した和製宝物です。形から読み取れるように、お守りや金銀財宝、香料などを入れる袋のことです。
仏教では七福神の大黒天が持っていますし、神道では大国主命が方に掛けています。そしてこの縁起の良い袋である”福袋”は、「積み重ねた苦労も福を成す」という意味の”福労”と読み替えられお宮参りの男の子用着物の柄としてよく使われるようになりました。またこの吉兆の意味から家紋にも多く使われています。
分銅(ふんどう)
こちらに似た形、どこかで見たことはありませんか?そう、地図記号の中で「銀行」を表す記号です。この形はもともと両替屋などが、金や銀の重さを量るために使ったたおもりの形を表したものなのです。銀行は両替商ですので、なるほどこの分銅の形が使われている訳ですね。
真ん中がくびれて左右が広がった形の美しさや、富や財に繋がる意味があることから縁起が良いとされ、宝尽くしの中でも良く描かれています。
また、分銅文様は「分銅繋ぎ」というパターン化されたバリエーションでも使われることがあります。器ですと図柄としてだけでなく、器の形自体が分銅型のものもありますよ。
宝巻(ほうかん)、巻軸(まきじく)、筒守(つつもり)
「宝巻」は、巻き物が一本もしくは二本平行に並べらえたものを言い、「筒守」は祇園守文のように二本の巻き物をクロスした形で描かれたものを言います。
これらは、経文や、知恵、門外不出の奥義書などを意味しており、貴重なもの、知恵の拠りどころとして宝尽くしの中に選ばれています。確かに巻き物というと、とてもうやうやしい有難いものというイメージが浮かびますね。
この宝巻、巻軸、筒守は宝尽くしとして散りばめられているだけでなく、器の縁取りや裏などに描かれていることも多い図柄で、よくお客様から「これは何の模様ですか?」と聞かれることの多いものです。
隠れ笠(かくれがさ)、隠れ蓑(かくれみの)
笠や蓑は藁(ワラ)や茅(カヤ)などの素材で作られた寒さや雨などから身を守るものです。”隠れ”という語は、この笠や蓑を着ると危険な事物から姿を隠し守ってくれることから付いたものです。
かつては鬼や天狗が持っていると伝えられ、「保元物語」の「為朝鬼が島に渡る事」の段で、源為朝が鬼の子孫に”噂に聞く宝物を見せよ”と尋ねると、子孫たちが ”昔まさしく鬼神なりし時は、隠れ蓑・隠れ笠・浮かび靴・沈み靴・剣など言ふ宝ありけり。” と答えている場面が記されています。
隠れ笠は男性の文様で、隠れ蓑は女性の文様と言われることもあります。
宝珠(ほうじゅ)
宝珠とは、次の通り 宝の珠(たま)のことで、もとは密教法具のひとつです。寺院に行くと菩薩様が手に持っている姿を見かけることもありますね。
のちに、宝珠は「金銀財宝や望むものを思いのままに出すことができる、災難を除き清らかにする」とされ、それが「良い人生を過ごせる・夢を叶えることができる」と信じられてたことから宝尽くし文様として選ばれています。
丸くて先がとがっており、その先端と両側から火焔が燃え上がっているように描かれます。単独で器に描かれていることもあり、形がどこか可愛らしい文様ですね。
宝鑰(鍵)(ほうやく)
宝鑰(鍵)とは蔵のカギで、現代のカギのように両端にギザギザがついた形ではなく、角ばったぜんまいや蕨のように先を巻いた形をしています。
京都でこの模様といえば、伏見稲荷の狐が口にくわえている様子や、くづきりの鍵善良房さんの暖簾や漆の器に描かれている図が思い浮かびます。
蔵の鍵ということで財や富、豊穣など縁起の良い象徴としたり、鍵善さんのように「鍵」と名の付く屋号の紋としたりと長く用いられてきたものです。
そして、弘法大師 空海の「秘蔵宝鑰」という書物の中では、宝鑰(鍵)はただの鍵ではなく真の仏の教えを開く鍵として記しています。そこから、神仏から加護を与えられるシンボルとしての役割を持っているとも言われるとても有難い文様なのです。
いかがでしたか?知らずに見ても可愛らしい華やかな「宝尽くし文様」。それぞれの意味を知ると、より一層愛着をもって眺められますよね。
今回ご紹介したものの他にも、「軍配」や「七宝」なども宝尽くし文様に加わっていたり、縁起の良さから「松竹梅」や「鶴亀」とコラボレートして描かれいることもあり、見ていて飽きません。
器を探す時には自分のお気に入りの文様が描かれているものを探すというのも楽しいかもしれません。プレゼントの品を選ぶときに文様に意味を込めてみるのも良いですね。
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