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新宿二丁目


二十歳すぎくらいの頃か
 
駆け出しの雑誌編集ライター時代のこと

僕は新宿区の市ヶ谷で働いていた。

ピカピカの社会人一年生として

慣れない仕事に悪戦苦闘の連続だったけれど

楽しくて楽しくて仕方がなかった。

初めて大きな仕事をもらい

苦しみながらもなんとかやり遂げたとき

同時に、自分とは何かを

掴めたような錯覚をした。

仕事で切磋琢磨した同僚に意気揚々と

「俺さ、ついに自分のアイデンティティーが見つかったんだよね!」
と宣言。

今思うと、超こっ恥ずかしいが、

当時は嬉しさのあまり興奮気味に同僚に言い放った。

するとすかざず

「おう!やったじゃん。早速お祝いだ」

同僚は、窓から見える新宿の明るいビル群の方面を指差し、

「あの灯りが見えるな? 今夜はあそこで飲もう!」と呼応してくれた。

…21歳の同僚が飲みに連れて行ってくれたのは

新宿二丁目のお店だったのだ。


当時の僕は、世間知らずで

生意気盛りだった。

けど、二丁目の街に降り立った瞬間

ただの意気地なしのクソガキに早変わり。

路上にいたチョビ髭スキンヘッドの男の人を見つけると

「あ、ママ!どうしたのさ!?」と同僚は慣れた風情で挨拶。

「あら〜、こんばんわ。いい男がいないか探してたのよ〜

ちょうど、良かったわ〜」

「ママ、紹介するね。会社の同僚で…」

僕は「ママ」という男性のいでたちと

言葉遣いのギャップに大いにビビり

その場に立ちすくんでいた。

そこから先の記憶は途切れとぎれ

お店の雰囲気に完全にのまれて

挨拶の言葉以外、

一言も発せず。

顔に薄ら笑いを浮かべたまま固まって

完全に置き物と化していた。

何を食べ

何を飲んで

何を話したかもあまり覚えてない。

「は、は、早く帰りたい」の一心だったことよ。


それから、徐々に慣らしていき

回を重ねるごとに

気がおけなくて

性差や年齢も国籍も一切、気にすることもなく

浮世の愚痴や悪口をいっぱい言い合える楽しい憩いの場となるのだが

それも、仲間と行ったときだけだった。


あれから何年経っただろうか

先日、久々に二丁目を歩いてみた。

相変わらず

独特の雰囲気に飲み込まれて

僕は未だに

ビビリ

一人ではやっぱ無理だぜ〜とボヤいた

マッチョな男のポスターを見て

吐きそうになったりしてさ…(笑)

新宿二丁目に関しての僕は

まだまだ、何万光年も

修業が足りないのであった。


ありがとう。あなたの真心のサポートに感謝します。