盗まれたピロシキ
ある夕食時、パン屋さんで安売りになっていて買ってきたカレー味のピロシキを夫が食べると言い出した。
それから電子レンジで軽くピロシキを温めてから皿に載せ、ダイニングテーブルに持ってきた様だった。
暫くして夫が、
「この残りのピロシキ食べちゃって言い?」
と聞いてきた。私は
(自分で食べるために温めたんじゃないのか?変だな。)
と思い
「え?残りって?私食べてないよ。」
と答えると夫は
「あれ?一緒に食べると思って2個レンジで温めてきたよ。」
と答えた。
不思議に思いお皿に手を伸ばすとそこにはピロシキが一つしか無かった。
私たちの考え方は基本、反対なことが多いが、この時ばかりは二人の脳裏に共通して嫌な予感がよぎった。
夫はさっと立ち上がり、珍しく隣の寝室で静かに過ごしているひなちゃんの事情聴取に向かった。
すると、聞くまでもなくひなちゃんの手や衣服からぷーんとカレーの香が漂っているという報告がもたらされた。
どうやらテーブルの下からぷにゅっとした手を伸ばし、皿の上のピロシキ一つを掴み取り、隣の寝室まで逃走を図っていたのだ。
いつも私たちがご飯を食べていると騒ぎ散らかしているひなちゃんが、その時静かにしていたのは、このピロシキを隠しながら食していたからだろう。
布団に投棄されたピロシキは両端が噛みちぎられた常態だった。口に全く合わなかったようでピロシキ自体は原型を留めていたものの、中に入っていたカレー味の挽肉は布団だけでなくリビングのフローリングにも撒き散らされていた。
おそらくひなちゃんは手に入れたピロシキを即座にかじった後、最終地点の布団まで振り回し、挽肉をばら撒きながら運んだものと考えられる。
静かにひなちゃんがことを起こしていたため私たちも気づかずのんびりと食事を続けてしまい、このように事態が悪化した。
なんと愚かなことだ。
結局、必死に飛び散ったカレー味の挽肉の除去に思った以上に体力と気力をすり減らし、気づけば寝る時間となっていた。
しかし、力及ばず匂いまでは除去しきれなかったため、微妙にカレー臭の香るような気がする布団で一晩眠ることとなった。
子育て中には本当に予想もしないことが起きる。ひなちゃんがお腹にやって来た時も、生まれた時も、今後、カレーの匂いが漂う布団で寝ることになるなどとは想像もしていなかった。
盗まれたピロシキを教訓に、これからはテーブルに載せた食べ物の個数まできちんと互いに共有することにした。私たちに「見れば分かる」は通用しないのだ。改めて思いや考え、その場の状況を言葉にして伝えることの大切さを実感した。それをおざなりにすれば、またピロシキの様にしれっと何かが盗まれ、部屋中にぶちまけられるはめになる。
家庭の医学というテレビ番組の最後、いつもナレーターが言っていた
「大変なことになりますよ」
というセリフが頭の中でこだました。
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