犬の使命
活発なジャックラッセルテリア、彼の名はポチ。
生まれてからずっと彼はある家族のもとで暮らしてきた。
ポチは誰よりも家族が大好きだった。お父さん、お母さん、そしてポチよりも年下の二人の子供たち。みんながポチを愛し、ポチもまた彼らの笑顔を見るたびにしっぽを振って喜んだ。
けれど、時には家族の心に暗い影が差すこともあった。お父さんが仕事で失敗して肩を落とすとき、お母さんが夜遅くまで疲れ果てて家事をするとき、子供たちが友達と喧嘩し泣きながら学校から帰ってきたとき。
ポチはそんなときただ黙ってそばに座り、彼らに寄り添うのだった。
実は犬には大好きな人達の悲しみや苦しみを吸い取る能力がある。家族がストレスや悩みを抱えるたびにポチはその負の感情を少しずつ自分の中に取り込んでいった。
それがポチの「使命」だった。
彼は知っていた、自分の寿命がその分だけ少しずつ減っていることを。でもポチはその事について何とも思っていない。だって家族が笑顔でいられるならそれだけで幸せだから。
年月が経ち、ポチもだんだんと歳を重ねていった。彼の毛は白くなり、足も重たくなった。でも彼は相変わらず家族に寄り添い優しい眼差しで見守り続けた。
ある夜、ポチは静かに目を閉じていた。
もうすぐ天国に行くと感じていた。彼の周りにはお父さん、お母さん、子供たちが集まり涙を浮かべてポチを撫でていた。
「ポチ、ありがとね。君がいてくれたから私たちは本当に幸せだったんだよ」とお父さんが言った。お母さんもそっとポチの頭を撫で感謝の言葉をかけた。子供たちは大泣きしながら「ポチ、ずっと大好きだよ」と伝えた。
ポチは心の中で微笑んだ。彼が守り続けた家族がこうして幸せであることを確認できて本当に嬉しかった。
そして、彼は最後の力を振り絞ってしっぽを一度だけ振ると静かに息を引き取った。
天国への道を歩きながらポチは感じていた、心からの感謝を家族から受け取ったことを。
彼の16年間にわたる使命は無事に果たされたのだ。
「ありがとう、僕の家族。ずっと一緒にいてくれてホントに幸せだったよ」
ポチの心は安らかで温かかった。
終わり