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映画 グラン・トリノ

72年製の“グラン・トリノ(フォードの名車)”は彼にとって誇りであり栄光の証。

朝鮮戦争に従軍した過去をもつウォルトはフォードを退職し、今は愛犬デイジーと二人で暮らしている。

隣人は“イエロー”と嫌うモン族の一家。

民族や言葉の壁を越えた繋がり、越えられない現実。

主演、監督、製作、クリント・イーストウッド。

2008年のアメリカ映画、日本での公開は2009年4月25日。

ハリウッドのレジェンド、“クリント・イーストウッド監督”がアカデミー賞作品賞を受賞した“ミリオンダラー・ベイビー”の次に主演した作品。

クリント・イーストウッド監督はグラン・トリノを自分の俳優人生最後の作品にするつもりだったという。

“まさに、魂の演技”

EDで流れる主題歌“グラン・トリノ”はクリント・イーストウッド監督、ジェイミー・カラム、監督の息子カイル・イーストウッド、マイケル・スティーブンス4人での共同作曲。

クリント・イーストウッド監督の渋い歌声が心にしみる名曲だ。

トレイ役で監督の息子“スコット・イーストウッド”も出演している。

映画の舞台は自動車産業で発展を遂げた街“デトロイト”

主要産業の衰退、破綻と共に街にはゴーストタウン、スラムが広がり、アメリカ国内での犯罪率の高さはトップ、アメリカで最も治安が悪い街になってしまった。

2023年現在、デトロイトの景気は回復、中心部はかなり発展、活気を取り戻しているらしいが…。

ちなみに“ロボコップ”が犯罪者を取り締まっているのもデトロイト(架空のデトロイト)

主人公は“ウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)”

“朝鮮戦争”に従軍した過去をもつ“生粋の軍人”で“フォード”で50年働いた“生粋の職人”

妻が亡くなったあと、息子たちとは距離を置き、愛犬デイジー(ゴールデンレトリバー)と二人で静かに暮らしている。

彼の宝物はエメラルドグリーンともいうべき深い緑の車体に白のラインが入ったピカピカのフォードの名車“グラン・トリノ(72年製)”

みんなが狙う、欲しがる、グラン・トリノとはそういう車。

彼が50年かけて揃えた工具、手に入れた愛車は彼の人生そのものであり“誇り”だ。

息子は“トヨタ”の“ランクル”に乗り日本車を販売している…。

ウォルトは差別的な考えをもつ人間。

頑固で古い考え方、人種差別の意識がとても強い(アジア、黒人、ユダヤ人、ヒスパニック、イタリア系など)

家にはアメリカの国旗が掲げられている。

ある日、そんな彼が暮らす家の隣の空き家に“モン族”の一家が引っ越してくる。

モン族とはベトナム、中国、ラオス、タイなどの山岳地帯で暮らしている少数民族。

“ベトナム戦争”でアメリカに協力したモン族の人たちがアメリカに渡ってきていた。

生活習慣などすべてが違う隣人にウォルトは不快感をあらわにする。

ウォルトが暮らす地域では黒人系、アジア系などの“ならず者”が同じ人種同士で徒党を組んで犯罪に手を染め、対立している。

元々暮らしていた人たちの多くは引っ越してしまった。

治安の悪化は止まらない、異国の人々に侵されていく地域で頑固な老人が一人、アメリカの旗を掲げ、ライフルを手に暮らしているのだ。

隣人一家の“タオ”、“スー”姉弟。

美人な姉スーをギャングたちから助けたウォルト。

ギャングにとって目障りな老人、その宝物を盗むようタオはギャングから強要される。

この一件がきっかけで、ウォルトはタオ、スー、隣人一家と関わることに。

コーラ、ビール、ビーフジャーキーが主食のウォルトは“チキン団子”を振る舞われ…温かい料理はやっぱり美味い。

人生に恋、“男としてのアドバイス”を通してタオとの関係を築いていくウォルト。

タオ、スー、二人は年の離れた友人…。

イエロー、ジャップと忌み嫌っていた隣で暮らす人々がきっかけで地域に溶け込んでいくウォルト。

彼には多くの後悔がある。

一番の後悔、それは朝鮮戦争で13人、あるいはもっと人を殺したこと。

やれと命令されたから殺したんじゃない、みずからの意思で沢山の人間を殺した。

命令されて罪を犯した男とは違う…。

この戦争でウォルトは“星銀賞”を授与された。

“人を殺したときの気持ちは最悪、それで勲章をもらうのはもっと最悪だ”

ウォルト行きつけの床屋の主人“マーティン(ジョン・キャロル・リンチ)”

二人の軽口じゃない“大人の会話”がかっこいい。

“変な改造をしないならトリノはお前のものだ”

このシーンはまさにクリント・イーストウッド!

みずからの誇りと栄光、自慢の宝物をイエローと呼び見下していたタオに譲ると約束するウォルト。

タオ、スーたちと共にウォルトも成長し、止まっていた時間がまた、動き出している。

それぞれが新たな道を歩き出したなか、ある大事件が起きる。

それは途方もない悲劇…。

“奴らがいたらあの子は救われない”

ウォルトは髪を切り、髭を剃り、スーツを仕立てる。

身だしなみを整えたウォルトは彼を以前から気にかけてくれていた“ヤノビッチ神父(クリストファー・カーリー)”のもとへ。

遠ざけていた神父に懺悔をするウォルト。

別室に妻がいるのに別の女性にキスした、税金を支払わなかったことがある、二人の息子との関係…接し方が分からなかった。

ウォルトは懺悔で戦争のことはいわなかった。

犯した罪、過ち、苦しみを洗い流すことはしない。

男として、人として受け入れ、連れて行く。

“暴力の苦さを知った男が下した最後の決断とは…”

クリント・イーストウッド監督が人生、男の生き様、生と死とはなにか?を教えてくれる本作。

とても静かなドラマ、劇中に流れる楽曲も静かで優しい。

ヤノビッチ神父が登場する場面、セリフの意味が印象的でとても深い。

モン族の人々など、配役は演技経験の浅い人を選び、ナチュラルな演出にこだわったそう。

“民族や言葉の壁を越えた繋がり、越えられない現実”

この国や民族という大きなものを“隣人”という狭い地域を舞台として描いている訳だが、これは非常に難しい問題。

人間は誰でもテリトリーを侵されることを当たり前に嫌がる。

あとからやって来た人間に今までの暮らしをかき乱されるのは不愉快極まりないもの。

人はみんな考え方や性格がバラバラ。

国という大きなものでまとめてしまうなら、“国民性の違い”、“常識”や“当たり前”は国によって全然違う。

身近な話でいえば、自分は静かに丁寧に暮らしたい派なので、日本人でも外国人でも隣に引っ越してきた人が毎日騒ぐようなうるさい人、がさつな人だと非常に迷惑に思う。

“郷に入っては郷に従え”

昔から日本にあるいい言葉で日本人は比較的これに準じた行動を取る気がする(もちろんわがままで自分勝手な人も沢山いるが)

この言葉は中国のことわざから来ているという説もあるようだが…もちろん一括りにする訳じゃないが、現代の中国の人たちは“郷に入っても郷に従わない”人が多い気がする(自分がいままで暮らしてきた家の近所に住んでいた中国の人は騒ぐ、ゴミや食べ物を二階から捨てる、ゴミの日を守らないなど、みんな近隣トラブルのもとになっていた)

貧しさが人を犯罪に走らせるというのはどこの国でも同じ。

苦しい状況で同じ人種、国の人たちが集まるのも道理。

“人はみんな違う、生まれた国で常識や当たり前が違う、みんながみんな相手に合わせることはしない、すべての貧困を解決できない現実”

すべての人々が互いを理解し、壁を越えて共存できることが一番いい。

けど、それは現実的に難しい。

世界は広く、ひとつではない。

沢山の国があり、沢山の人間がいろんな考えをもって暮らしている。

問題は解決する努力をしなければいけない。

いけないが、この問題は綺麗事では解決しないと思う。

グラン・トリノがハッピーエンドではないように。

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