【オランダ移住 vol.40】目の前で警官に制圧される人を初めて見た
今回はオランダではなくドイツでの出来事ですが、オランダ移住中のお話ということで。
バスや電車を使った弾丸秋休み旅行。
最後の滞在地であるミュンヘンからアムステルダム行き20:35発の夜行バスに乗り込んだ。
席は2階の前から5番目。これでうまく寝られれば朝にはアムステルダムだ。
出発してしばらくすると、後ろの方から話し声が聞こえてきた。
聞いている感じだとドイツ語でもオランダ語でもない言語のようだが、女性2,3人が盛り上がって話し続けている。
まだ21時前だからそのうち静かになるだろう…と思っていたら、いつまで経っても話し声が収まらない。収まるどころかますます盛り上がってむしろ声が大きくなってきた。
22時を過ぎても話を止めない女性たちにとうとう近くに座っていたドイツ人のおじさんが注意をした。
すると、女性たちの一人がそれに言い返す。
おそらくドイツ語のやり取りなので、彼女たちの中にドイツ語が喋れる人間がいたのだろう。
言い合っている意味はまったく分からないが、その女性はまったく聞く耳を持たないようで、しばらくするとおじさんは諦めたようだ。
少しの間だけ彼女たちの声は小さくなったが、しばらくするとすぐにまた声は大きくなり、車内中に響き続けた。
23時を過ぎても彼女たちは喋り続ける。
どうなっているんだと後ろを振り向くと、先ほど注意をしたおじさんと目が合った。
「いったいどうなってるの?」と目で問い掛けると、「俺も分からんよ」という顔でおじさんが応える。
おじさんはわたしの方を指して「あの人も何か言いたいみたいだぞ」という感じで彼女たちに声をかける。
仕方なくわたしも「もう遅いからもうやめてくれないかな」と英語で伝える。
合わせておじさんも彼女たちに何か言うが、3人のうちの1人が「お前は黙ってろ!」というようにおじさんを怒鳴りつけた。もうめちゃくちゃだ。
そこから静かになったのはほんの2,3分だけ。
彼女たちはまた何ごともなかったかのように同じ声の大きさで話を開始した。
しばらくするとシュツットガルト空港に到着。
おじさんはここで降りるようで去り際に彼女たちに「おまえらうるさい」というようなことを言ってから降りて行ったが、バスが動き始めると彼女たちはまた話を続けるのだった。
これはもうどうしたらいいのだろう。
ほぼ満席だが誰も何も言おうとしない。
みんなただひたすら黙って寝ようとしているが、運よくヘッドホンや耳栓を持ってきている人以外はみな眠れずにいるようだ。
選択肢としては、
1.ドライバーに伝えて注意してもらう
2.自分でまた注意する
3.ただ我慢する
の3つだろうか。
1が一番有り難いが、今のところその動きはない。
アムステルダム到着は朝8時半だから、あと8時間くらい我慢しないといけないのか…これはキツい。
悶々としながらもなんとか眠ろうとするが、女性たちの会話は時折笑い声も混じりながら全く終わる気配がない。これで寝るのはちょっと無理かもしれない。
ほとんど諦めかけたころ、バスが停まった。
時計を見ると午前1時。あと7時間か…。
と、突然車内が明るくなり、男性が数人2階に上がってきた。
うち2人はベストを着ており、胸にはPOLIZIEと書かれている。
警察だ!
すぐに状況が理解できた。
ドライバーが警察に通報したのだ。
警官は一緒に上がってきたドライバーに彼女たちを指さして確認を取った後、眼鏡を掛けている方に「ドイツ語は喋れるのか?」と聞いた。「ノー」。
「イングリッシュ?」
「ア リトル」
「わかった。あなたたちは何人連れ?」
「えーと、わたしと彼女と彼女」と通路を隔てて隣とその後ろの席を指さした。
警官は後ろの席で寝ていた少し太った女性を起こした。
「ドイツ語は?」
「(目を擦りながら)…話せる」
ということで、そこから警官はその太めの女性にドイツ語で話し、彼女は残り2人に先ほど使っていた言語で通訳をするようになった。
「パスポートを出して」
警官が指示すると、眼鏡を掛けた方と隣の席の女性がパスポートをバッグから出す。
それを確認してから窓際の席を指差して「そっちは?」と聞く。
「それは友達の子ども」と太めの女性が答える。どうやら窓側の席で子どもが寝ていたようだ。
子供連れであんなに騒いでたのか…。
よく見ると眼鏡を掛けた女性の首元にはタトゥーが入っている。
顔つきは少し気の強そうな普通の女性だが、服装は真っ赤なスウェットパーカーの上下に炎の模様。もしかしたら堅気の人間ではないのかもしれない。
パスポートを確認した警官は女性3人子ども1人に車外に出るように指示した。
が、ドイツ語が喋れる太めの女性はそれに従おうとしない。
まったく臆することなく警官に「ノー、外には出ない」と言い返す。
しばらく押し問答していたが、彼女は一向に降りて外に出ようとしないので、警官がもう1人上がって来て強めにその女性に外に出るように言う。
女性は先ほど目を覚ましたばかりの子どもを指差して「この子も?」と聞く。警官は「もちろん」と答えたようだ。
「小さい子どもよ!」
「申し訳ないが一緒に降りてもらう」
「小さい子どもじゃない!」
「ダメだ」
女性は何度も「Kleine kind」と連呼するが、警官も譲歩する気はないようで、最後には「これ以上抵抗するようなら力ずくでも降りてもらう」と言ったようだが太めの女性は従おうとしない。
「出ろ!」
「出ない!」
「出ろ!」
「ノー!」
「出ろ!」
「いやだ!」
とうとう業を煮やした男性警官2人がその女性に掴みかかり、必死に抵抗するのを床に組み伏せた。そこから2人で引き起こし、後ろ手に捩じって下の階になんとか降ろして車外に連れ出していった。
それを間近で見ていた残りの女性2人と子どもは他の警官に促されて大人しくバスの外へ出て行った。
すっかり静かになった車内には外で太めの女性が抵抗する声や音が聞こえてくる。
いきなりドン!とバスが揺れた。
どうやら警官たちにバスに押し付けられたようだ。
続いて「ヒュー ヒュー」と息を吸い込む音が聞こえ、「息ができない…」。
アメリカで警官に押さえつけられて死亡した黒人男性のニュースが頭をよぎったが、先ほどの様子からして警官たちがそこまで乱暴なことをするようには思えない。
「ヒュー ヒュー」という呼吸音はしばらくすると聞こえなくなった。
時計を見ると午前2時近く。
正直言ってもうさっさと4人を警察署に連行してもらってアムステルダムに向けて出発してほしいところだが、バスはまだ停まったままだ。
しばらくするとだいぶ抵抗したのちに太めの女性は警察車両に入れられたようで外は静かになった。
と、警官が1人2階に上がって来て、彼女たちの周りに座っていた乗客たちに住所や電話番号を聞き始めた。
裁判になった時のために証人として連絡が取れるようにしておきたいようだ。
わたしは若干離れていたため聞かれなかったが、わたしの後ろの席の人までが住所や電話番号を聞かれていた。
警官がみなバスから降りてしばらくするとようやくバスが動き出した。
車内はいきなり静かになり、わたしもおそらく他の乗客たちと同じようにスイッチが切れたようにすぐに寝てしまった。
外が明るくなって目が覚めたのが7時ごろだったか。
4,5時間しか眠れなかったが、あのままであればおそらく一睡もできなかっただろう。運が良かった。
バスは予定より若干遅れて9時過ぎにアムステルダムに到着した。
ここから電車に20分ほど乗れば家に帰れる。
いやいや、大変な目に遭った…とバスから降りると、見たことのある女性がバスから出てきた。あれは…昨日騒いでいた眼鏡の女性だ!
てっきり全員警察に連行されたと思っていたが、連れていかれたのはどうやら車外に出るのを拒否した太った女性だけだったようで、残りの女性2人と子どもは目的地であるアムステルダムまでバス1階に乗っていたらしい。
さすがに友人が連行されてからは大人しくしていたのだろう、すっかり憔悴した様子で他の乗客の視線を避けるように自分の荷物をそそくさと引っ張り出している。
さっき降りる際にチラッと見たが、彼女たちがもともと座っていた2階の席の床には空き缶やスナックのカスが散乱しており、警察が来るまで相当好き放題していたのが見て取れた。
また、おかしなことに、連れている子どもは眼鏡を掛けていた女性の子のはず(「My son」と言っていた)だが、子どもの隣に座っていたのはもう片方の女性で、外で警官に質問されている際も子どもはずっとその母親ではない方にくっついていたと妻が教えてくれた。もう片方の女性は乳母かベビーシッターだったのだろうか。
彼女たちの国籍はけっきょく分からなかったが、容姿や話していた言語などからして東ヨーロッパやカスピ海沿岸の国の人間で、同じルーツでドイツ国籍を持つ太った女性が同伴してミュンヘンからアムステルダムに移動中、車内で酒盛りを始めて警察に通報されたというところだろうか。
ちなみに、今回の旅行では5回ほど長距離バスを利用したが、途中でパスポートチェックがあったのは3回、すべてドイツ内でだった。
それだけドイツは国内に入ってくる外国人に神経をとがらせているというところだろうか。
たしかに、彼らのように人としてのルールをまったく意に介さない人間が無制限に国内に入ってくると大変だろう。今回の彼らはドイツではなくオランダに入ってしまったが。
しかし、それにしてもなんでこうよくトラブルに出くわすんだろう。
SNSを見ているとみな「オランダやドイツは治安がいい! みんな優しくていい人! 多様性に寛容!」などと書いているから自分たちだけ別次元に存在しているような気になってしまうが、これらはすべて実際にあったことだ。
とりあえず自分がトラブルを引き寄せてしまう体質ではないことだけは祈っておかないといけない。どうかそうではありませんように…。
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