作曲・編曲㉛

予定していた話に戻り、今日から実際の曲をテーマに編曲について語っていきたいと思います。

まあ気分次第ですぐ終わるかもしれませんが(笑)。後、当たり前ですが自分の好きな曲しか取り上げません。

最初に挙げたいのは今井美樹さんの「半袖」です。前にも記事で書いたことがありますが、この曲を始めて聴いたのは出張時の飛行機の音の悪い音楽チャンネルがきっかけです。

元々はシングルでもなく、アルバムの中の曲だったようですが、ベスト盤には入っていたりする曲なので、やはり評価も高いんでしょうね。

で、凄い作品だなあ、と思ってレンタルCD借りました(この頃はまだ音楽に対する所有欲求があったんですよね(笑))。

もちろんいつの曲かなんて知らない訳でしたが、まず驚いたのが、1990年の曲だった、という点です。

自分自身この頃は全くJーPOPなるものを聴いていなかったのですが、後追いでこの頃の曲も聴いています。

ただ全く同じ時代の作品とは思えないんですよ。

もちろん編成の問題もあります。ベースも無ければドラムも無い、その上ギターまでない訳ですから、まあ同じ印象になる訳がないですよね(笑)

基本的にはストリングスとピアノを中心とした編曲です。

また曲の構造としてはイントローAーA’ーBーサビー間奏ーAーB-サビーエンディングという、比較的短いパターンの構成です。

まずイントロがいい点ですが、普通だとピアノを入れるのに、ストリングスだけで入るところです。

またこのイントロは曲の他の部分を利用して制作していないので、その後をしっかり考えた作りになっていて、その辺も聴きどころです。

そしてイントロのストリングスの最後の音が鳴る辺りでピアノが入ってきます。

で淡々とアルペジオを弾いている中で、そのままAメロに入ってきます。

で、基本AーA’という展開で進むのですが、この間はほぼピアノだけで行きます。AーA’の間でハープ系の音がアクセントで使われているのと、A’の始めで、軽く低めのストリングスが入りますが、基本はピアノの変化で徐々に盛り上げていく印象です。

で、Bメロでストリングスが入ってくる、ここまではそれほど変わった展開ではないでしょう。

でサビでもっと盛り上がるのかと思うと、そうはならないんですよね。大抵バラードだとサビの入りのところでドラムが入ったりするのですが、この曲はドラムが入っていません。

そういう場合だとパートを足すとかするのですが、ストリングスはフルで使っているので、金管あたりを入れて盛り上げるのが普通でしょう。

ただこの曲、全然違う展開になるんですよ。

サビの入りのポイントはコントラバスのピチカートです。

ここが変化をもたらすといった点で非常に効果的なんですよね。こういう発想はなかなか思いつかないと思います。

おそらくこの曲の場合、Bメロが割と立っているので、あえて入りを静か目にしているのかと思います。

で後半に木管を使うことによって、徐々にサビの「盛り上げ感」を出している印象です。

で本当に短い間奏(これも曲のどこにもない間奏のパターンでT-DーTといった感じ)が入って2コーラス目のAメロに入るのですが、この部分は基本的に1コーラス目のパターンを踏襲しています。

ただやはり流れの上で、また1コーラス目との間に変化を持たせる必要があると判断したのでしょう。やはりストリングスは完全に外さず、ボーカルの合間に入れています。

オーソドックスな手法ですが、左右を上手く使って、最初は低音を右から、その次の合間では高音を左から、というように変化を持たせています。

Bメロは1コーラス目とそれほど変えた作りにはしていないですね。多分この曲の詩のポイントがBメロにあることを意識して、敢えてそういう作りにしているのかと思います。

でサビ、今度はコントラバスのピチカートが入らないんですよ。で1コーラス目と違う雰囲気を持たせています。

でエンディングですがこの曲、それまでのパートからは考えられないほど長いです。

ポイントは入りで入るバイオリンのピチカートですね。実は2コーラス目のサビでコントラバスのピチカートを入れなかったのも、ここのピチカートを活かすためだと思います。

で、基本的にAメロからエンディングを作っているのですが、途中から徐々に変化して、これまで出てこない全く別のパターンになるんですよ。

そしてここで木管がアンサンブルになって前に出てきます。サビの木管はこの部分の伏線なんですよね。

また同時にコントラストのピチカートが出てきます。2コーラス目のサビでコントラバスのピチカートを使わなかったのも、実はこの部分を活かすためだとも考えられます。

で、最後はストリングスをメインにして最後の盛り上がりを演出して曲が終わります。

多分日本の曲でここまで計算し尽されたアレンジというのはほとんどないと思います。

一般的なポピュラーのアレンジとは違うアレンジですが、参考になる部分が実に多い作品だと感じています。

ただこの作品の編曲者の佐藤準さんという方、良く知らない曲がほとんどなのですが、作曲者として「売れた曲」はあるようですが、個人的にはあまり好きな曲はないんですよね。

編曲者としては、レコード大賞の編曲賞を2回取っているようですが、このようなアレンジは他の曲には全くないイメージなんですよね。まあ知らない曲が多いので何とも言えませんが...。

ストリグスアレンジは他の方がやっていた、としたら、この曲のアレンジの評価はどこに向かうべきものなのか分かりませんが、やはり素晴らしいものは素晴らしいです。

で仮にストリングスアレンジを他の方がやっていたとしても、このイントロとエンディングを制作していた、というそれだけで素晴らしい仕事だとも考えています。

この曲の場合やはり「詩」の素晴らしさが強調されがちなのですが、このアレンジもまた凄いからこそ、優れた作品になっているのかと思います。

ちなみにこの記事を参考にYouTubeで聴く時はオリジナルの作品(確かご本人のオフィシャルサイトにあったと思います)を聴いてください。

アレンジが違うものを聴いても何だか分かりませんから(笑)。


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