曲と歌詞⑦

今日こそは書こうとしていたことを書こうと思います。

「歌詞が本当に分かりやすいのか」です。

実際に色々な解釈をされる歌詞、というものは確実に存在しますから。しかもどれが正解に近いか、は凡そ分かっているのに、違った解釈が行われている曲があります。

宇多田ヒカルさんと椎名林檎さんの「二時間だけのバカンス」です。

これ、不倫の歌だとか色々な解釈があるようですが、これが単純な不倫の歌ではないことはある意味一目瞭然な話だと感じています。

でもそこまで行きつかない方が多いようで...。

最初の「クローゼットの奥に眠るドレス」の部分、この主人公の状況をそのまま表しています。

「クローゼット」って単なるクローゼットじゃないんですよ。この言葉自体に「秘められた」とか「秘密の」といった意味があります。

不倫の歌なら、別に長い間ドレスを「隠す」必要はありません。

良くこの部分が「昔の回想」のように捉えられるのですが、全く違います。この部分は「今」を語っています。何故このような誤解が生まれるかというと、それはクローゼットという言葉に複数の意味があることを知らない、ただそれだけのことです。

もっと言うと、「クローゼット」と「カミングアウト」は対を成す言葉でもあります。

LGBTの方にとって「カミングアウト」していない状態を指す言葉でもあるんですよ。

そうすると、あのMVの意味も良く分かると思います。

で、これが不倫の歌であったとしても、このような視点で考えると別のものが見えてくると思います。

いわば主人公は自分の「性的指向」を隠して生きていてはいても、そのことに耐えられないが故に、もはやドレスを着ることも無く、ハイヒールを履くことは出来なくなってしまったというような存在、と考えるのが自然でしょう。

その上、体自体は「女性」でありながら、自分の意識の上では自分が「女性」であることに苦しみを覚えているにもかかわらず、だからといって周囲からの視線上の「女性」の枠から出ることが出来ない存在です。

で、その「女性」の枠から外れられ、「自分が自分自身であること」が出来る短い時間こそが「二時間だけのバカンス」なのかと。

相手が家族持ちなのに、「授業さぼって」という言葉が唐突に出てくることも一種の「比喩」ですよね。「授業」が意味してることとは「義務的であること」だと考えるとしっくりきます。

そうやって考えるとこの曲の歌詞は、単なる不倫とは違い、内容としては相当に重い内容です。それを不倫の歌としか感じないようでは、やはり悲しいですね。

まあ自分の解釈が間違っていたら、逆に自分の方が「歌詞の意味が分からない人」になりますが(笑)。

ただ、どちらにせよ、「言葉」の「意味」が分かる、ということは実は難しい、ということはお分かりいただけるかと。

分かりやすい言葉で文書をかける方がいい、これは実生活では確かに事実ですが、これは「作品」であって、必ずしも分かりやすいことがいいこと、とは言えないんですよ。

もちろん世の中には「分かりやすい歌詞」が氾濫しているのもまた事実で、だからこそ「歌詞」に「共感」する、という事が簡単に言えるのかもしれません。

もちろん曲自体いい曲だと思いますから、それでいい、という考え方もあります。

歌詞を持ち出さなければ、こういう現象は起きませんから。



ほぼ書きたいことを書いていて、読んでいただけることも期待していませんが、もし波長が合えばサポートいただけると嬉しいです!。