2.エッセイ
雨
雨の日は街が静かだ。
傘に当たる雨音、アスファルトに当たる雨音。
風に揺れる葉の音や、車が横を通り抜ける音も雨を含んでいる。
雨に濡れて冷えた風が頬にあたる。
長靴のかかとを少し擦って響く音。
雨はわたしの感覚を敏感にさせる
晴れの国岡山
歩道橋の階段を降りている時、ふと、10年前のある日を思い出した。
ちょうど今日と同じような日だった。
ふと思い立って電車で岡山の美術館に向かった。電車で行ったので、ものすごく時間がかかったのを覚えている。岡山は晴天の日が多いので、『晴れの国、岡山』と呼ばれているのだけれど、その日は雨がしとしと降り続いた。
目的の美術館に到着するも入り口がどこだかわからない。ぐるっと回っていると、門には『閉館日』ただ無愛想に看板がかけられていた。
美術館で数時間過ごすはずだったのが、ぽっかりなくなった。
商店街が近くにあったのでぶらぶらしに行けば、ちょうどその曜日はほとんどの店がしまっていて、どうしようもなかった。
一応観光地なはずなのに、人もほとんどおらず、ただひとりぼっちで入る店もない。
お気に入りのスエード靴の先の色が変わっていくのが悲しかった。
そのあと心細さをうめるため岡山駅前の百貨店に入ったが、結局心細いまま、また数時間かけて電車で帰った。
今になって思えば、天気予報や美術館の定休日、商店街の休みのことは事前に調べられたはずだし、たくさん歩くならスニーカーにするのが当然だ。
ふと思い立って特に何も考えず直行していたのだ。愚かだけれど、その素直さが今はちょっと羨ましい。
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