差別と偏見で "医療従事者崩壊" を起こさない、資材や人材の不足で"医療崩壊" を起こさないためにして欲しいこと。
新型コロナウイルス感染拡大で緊急事態宣言が出されるなか、多くの医療現場が追い詰められています。資材や人材の不足に加え、医療従事者への「差別・偏見」など、いま医療の最前線は深刻な問題にさらされています。医療従事者の家族として感じたこと、"医療従事者崩壊" → "医療崩壊" を起こさないために、いま何が必要か、いま一人ひとりにできることは何か、希望を抱きながら願いを込めて書いてみました。
高度医療が必要な患者と新型コロナウイルス罹患者で医療従事者はすでに満身創痍。
私の妻は医療従事者(看護師)である。会社員の私とは違い、在宅勤務もなければ土日の休みもごく稀だ。患者がいる限り昼でも夜でも職場に出かけていく。プレイング・マネージャーでもあるので、家にいても現場から「急変した患者への対応」など指示を仰ぐ連絡が入ることも多々ある。通常の医療サービス時でも、「毎日大変だな」と思っていたが、このところの新型コロナウイルスの感染拡大で医療現場は本当に過酷を極めているようだ。日に日に疲労が蓄積してゆく妻を見ていて、その思いはさらに強まってきた。
医療もサービス業、といえばそれまでだが、医療は私の仕事のような「イメージを売るサービス業」ではない(私自身、自分の仕事にプライドを持ってはいるが... )。医療現場で預かっているものは「人の健康」あるいは「人命」というリアルでかけがえのないものだ。私の妻に限らず、多くの医療従事者は平常時から「人の健康と命を守る」という強い使命感をもっているように思う。だから、この新型コロナウイルスという「ラスボス的」な強敵が現れても、その使命感は変わらない。むしろ信念は強まっているように思える。そしてそのまっすぐに敵と向かいあう姿は「医療従事者の性」、そんな感じすらする。
しかし、現場はその強い使命感だけでは既に乗り切れない状況にある。最前線の医療現場にいる彼らは、好むと好まざるとに関係なく、毎日この強敵と顔を突き合わせ、明らかに一般の人よりも高い感染リスクの中で医療を施さねばならない(もちろん医療現場における感染防御のスキルは、無防備な我々より厳格・強固であることは疑いようがない)。毎日のように増え続ける感染者と収束がみえない状況でも、歯を食いしばってこのラスボスに挑み続けている。病床数が足りない、受け入れができない、患者のランクによって取捨選択をしなければならない、そのような医療崩壊にとても近い状況にあっても、見えない敵と戦い続けているのが医療従事者。世の中の注目が新型コロナ感染100%になっている現在、医療現場は新型コロナ感染以外の患者さんのケアも並行して行わなければならない。難病、心疾患やがん、脳卒中などで搬送されてくる緊急外来を含め高度な医療を必要としている人たちもたくさんいる。全方向に対応しなければならないのが現状だ。そう、彼らとてロボットではなく人間なのだ。そして彼らはすでに満身創痍なのである。
「感染しちゃったらごめんね」と妻には言われている。正直怖い。が、夫である私が理解してあげないわけにはいけない、と覚悟は決めている。ウイルスの無いところに避難もできず、日々ウイルスのあるところに近づかなければならないのが医療従事者なのである。彼らは、それを重々承知しながら、もし感染してしまったら家族や周辺の人に迷惑をかけてしまうという後ろめたさを常に感じている。そのストレスが如何ほどか、正直私には分からないが、日々人の健康と人命を考えることが仕事であり、使命であると教わってきた彼らにとって、その重圧は相当なものに違いないという想像はできる。
ウイルスだけでなく「差別や偏見」とも戦わなければならない最前線医療従事者の現実、そして葛藤。
実はいま、そんな疲弊しきっている彼らをさらに苦しめているウイルス以外の問題がある。それは、医療従事者に対する「差別と偏見」だ。ウイルスに一番近いところで働く彼らは、まるでウイルスのように扱われているのだ。東京という日本一感染者の多い地域の医療現場で働いているということに一因があるかもしれないが、どうやら日本のあちこちで同じことが起こっている。このような「差別と偏見」は、「医療従事者」=「ウイルスに最も近い人」=「感染の可能性大」=「いや、もう既に感染してんじゃね?」という漠然としたイメージから逃れられない「恐怖心を必要以上に抱え込んだ」人たちの負のスパイラルによってなされているのだ。
ある若い看護師さん。彼女は共働きのため子どもを保育園に預けているが、ある日、園から帰った娘さんに「今日、○○ちゃんに遊ぼうって言ったら嫌だ」と言われたという。「えっ?どうして嫌だって言われたんだろうね?」と聞くと「ばい菌がついてるかもしれないから○○ちゃんのママが遊んじゃダメだって」と言われ愕然としたという。別の日、早番を終えて娘を園に迎えに行った時のこと、別の保護者から「○○さんのところはご主人がお迎えに来てもらえたりはできないのかしら」と言われ、「えっ?なぜですか?」と聞き返すと、「ほら、あの、○○さんて病院に勤務されているじゃないですか... 感染とか... 怖くないですか?」と逆に聞き返されたという。
また、ある医療従事者は子どもの卒業式の数日前、同じ学年の保護者から「出席を見合わせてほしい」と連絡が入ったという(結局、卒業式は自治体の判断で生徒と職員だけになったようだが)。理由を聞いてみたが「いや、わたしも○○さんに連絡してほしいと頼まれただけなので... 」と言葉を濁されたという。他にも、いままで普通に接していたご近所の方から避けられるようになったり、いつも出していたゴミ捨て場にゴミを出したら、次から別の場所に捨てて欲しいと言われたなど、理不尽なことがたびたび起きている。普段は「近くに看護師さんがいてくれて、とても頼もしいわ」と近所の高齢者から慕われていたのがまるで嘘のように。他にもタクシーの乗車拒否、医療従事者本人の配偶者に対する出社拒否、「濃厚接触していない証明書」発行など、様々な誹謗中傷・風評被害が拡大していることを懸念する。
現場の医療従事者も生身の人間。いま必要なのは精神的負荷を軽減するメンタル・サポートと医療資材の最優先調達!
医師をはじめ、医療施設や介護施設、保健所などで働く看護師、保健師、臨床検査技師、臨床工学技士など、医療従事者へのこうした差別や偏見は、新型コロナウイルスの出現でより緊迫している医療現場において、彼らの士気を下げるばかりでなく、様々なストレスになるのではないかと思う。すでに睡眠障害や不安障害を感じている人も多くいる。さらにひどくなれば、うつ状態、PTSDなど、大きな精神的負荷を与えることになるだろう。医療従事者の多くは、自らの感情を抑えて、患者さんに安心してもらえるよう医療に従事している。しかし、だからこそ無理をして我慢することで余計に大きなストレスを抱え込んでしまう可能性が非常に高いのではないかと思う。
この状態が続いたとき、新型コロナウイルス対応ですでにリスクの高い医療現場は、さらに困難な状況へと進むことが予測される。医療崩壊を起こさないためには、"医療従事者崩壊"を起こさせないことが重要だ。高度な医療技術や治療薬、そしてワクチンの開発を加速させながら、それでも医療現場に必要なのは「マンパワー」であることは間違いない。診断をするのも、医療機器を動かすのも、薬を処方するのも、患者のココロとからだのケアをするのも、すべて「マンパワー」である。その「マンパワー」を下支えするためにも、いま一番必要なのは医療従事者へのメンタル・サポートではないかと思う。その一歩としてみなさんにお願いしたいのは、彼らへの力強い応援ではなく、まず理不尽な「差別と偏見」を持たないようにして欲しいということです。
医療従事者に対する「差別と偏見」を無くすことで"医療従事者崩壊"は減らせる。
先の見えない新型コロナウイルス禍。医療従事者の家族としてお願いしたいのは、偏見を捨て、最前線で働く人たちを優しく見守るココロを持ってサポートして欲しいということです。彼らが「差別と偏見」から解放されて普通に、そして十分に医療活動に打ち込めるようサポートしていただけたら嬉しいです。大きな声で「がんばれ!」と言わなくてもいい。ただただ、静かに、ご飯をいただくときのように、寺や神社に行ってお参りするときのように、同じ人間同士、お互いに感謝の気持ちをもって、医療従事者も、そうでない人も、まずはともにこの困難な状況から抜け出せる日が来ると信じ「同じ地平に立って同じ目線で」ウイルスに対峙し、未来を見て欲しい。そんなふうに思います。
そして、そのようなメンタル・サポートを意識していただきながら、医療従事者以外のみなさまには、日々の生活の中で自分にできること(外出を控える・手洗いの習慣化、手指の消毒など)を実践していただきたいと思う。そうすることで新型コロナウイルス感染のリスクを軽減し感染者を減らすことができれば、結果的に最前線の医療従事者への負担が抑えられることに繋がります。
いま必要なのは、医療従事者への政府と自治体の迅速な対応、そして個々人の意識の持ち方。
また、日本政府と地方自治体には、最前線の医療従事者と医療現場に対して、精神面のケアと物理面(資材・人材の確保・供給)のケアを今よりもさらに進化させ、人員や物資の不足に対し具体的・実働的にサポートしていただきたいと思うとともに、それらをより迅速に判断・実行していただくことを強く希求したい。また、そのためには多くのお金が必要となってくるはずですが、医療従事者崩壊、医療崩壊を避けるためにも最優先で予算調達をして欲しいと思う。
いま、日本の医療従事者、日本の医療現場が危機的な状況にあります。でも、ただ恐れるだけでなく様々な問題点を明らかにし、ひとつひとつ、しっかりと対応・対処していくことで医療従事者と医療の「崩壊」を起こさせないようにできると信じています。そして、それは個々人の意識の持ち方と政府の強いリーダーシップ発揮によって可能であると信じています。大切なのは、そのどちらかが欠けてはならないという点です。そして、医療現場への活動基金、クラウドファンディングなどにもご協力いただければと思います。
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