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ストロボの照射角と照射強度との関係~ソフトボックスを使う場合~ (最終更新日:2023, Aug.21)


1.目的

ストロボは、照射角ごとに照射強度が変わることはよく知られている。
市販のクリップオンストロボの照射強度は「ガイドナンバー」で表現され、また最大ガイドナンバーは照射角ごとに異なることが通常である。
照射角が小さくなるほど最大ガイドナンバーが大きくなる、すなわち照射強度が強くなることが多いようである。
ではポートレートやコスプレ撮影の現場でよく使われるソフトボックスを付けて照射する場合の照射角との関係はどうなのだろうか?
それを明らかにする実験を行ったので、それを報告することが本記事の目的である。

2.照射角と照射強度の一般的理解と論点設定

以下の議論では筆者が通常使用しているキヤノン純正スピードライトでの事例を示す。
キヤノンのスピードライト EL-5 および 600EX RTの取扱説明書によると、マニュアル発光時のガイドナンバーは、ISO感度=100、発光量=1/1の時に以下の様に定められている。

マニュアル発光時のガイドナンバー

以降、これについて事前に少し論じる。

1) 照射角の表記単位

カメラの世界においてはストロボの照射角の単位を何故か「mm」で表記する習慣があるようである。(キヤノンのみならず、ニコン/ソニー/ニッシンなど有名メーカーは全て同じ)
角度をmmという単位で表記する例を他では見たことがない。
これは、いわゆるフルサイズカメラのレンズの焦点距離を元とした表記であると推定される。(EL-5の取扱説明書にも、そのような規則を推測させる記述が存在する)
しかし筆者から見れば「愚か」としか言い様がない。
長年の習慣にとらわれているのであろうが、角度の単位は「°」であるべきだ。それがSI単位系に準拠したSI併用単位の使い方であるべきだ。
因習に基づいて角度をmmで表現するなど、未だにヤード・ポンド法を使う原始人のごとき所業と言わざるを得ない。
なお照射角の角度(°)表記をキヤノンに問い合わせたところ「公式には答えられない」との回答を得た。

2) 照射角ごとのガイドナンバー

角度表記についての愚痴はさておき、概ねどのストロボも照射角が広いほどガイドナンバーが小さくなる。
そもそもガイドナンバーの定義は以下の通りである。
ガイドナンバー=レンズF値×被写体までの距離×√(100/ISO感度)
これを変形すると
被写体までの距離=ガイドナンバー÷レンズF値×√(ISO感度/100)

これの意図するところは、
レンズF値が判れば、被写体を十分明るく写せる距離を算出できる
と理解される。

レンズの焦点距離が短い場合は、広い面積に対して光を当てる必要があるため、ガイドナンバーは下がらざるを得ない。
例えば、上記のEL-5の例で言えば、レンズ焦点距離=24mm、レンズF値=4.0の場合、最大撮影距離は3.7mとなる。そしてその場合の、3.7m先の撮影範囲(レンズ焦点距離24mmでの撮影範囲) は約10.8m × 約7.2m = 約77平方m となる。
レンズの焦点距離=200mmの場合は、最大撮影距離は15m、焦点距離200mmでの撮影範囲は約5.3平方mとなる。
すなわち、焦点距離24mmの時は、焦点距離200mmの時に比べて、最大撮影距離において14倍以上も広い面積を明るくしなければならない。

ここから、ガイドナンバーが大きいことが、「照射強度が強い (発光エネルギーが大きい)」と言い切れるのか?という疑問が沸いてくる。

3)論点設定

筆者がストロボを使用する主たる目的は、ポートレートやコスプレ撮影においてモデルさんを明るく照らすことであり、その際には概ねソフトボックスなど、光を柔らかくする拡散装置を使う。
そのような装置を付けたとき、果たして照射角はどのように設定するのが、もっともモデルさんを明るく照らせるのであろうか?
それを明らかにするのが、今回の記事の目的である。

3.実験:ソフトボックスを取り付けて照射角ごとの明るさを比較する

1) 実験方法

ストロボ にソフトボックスを取り付け、発光軸上の明るさをストロボメーターを使用して計測する。
具体的には

  • 使用するストロボ:
       キヤノンEL-5
       レシーバーモードにしセンダーからの指令で発光
       発光強度は、マニュアルモードの1/1

  • 使用するソフトボックス:
       ①GODOX SB-UE80 ボーエンス用 (直径約80cm)
       ②SmallRig RA-D55 (直径約55cm)
       いずれも外側ディフューザーシートのみ装着

  • ストロボメーター:
       SEKONIC L-308X

  • 測定する照射角:
       24/28/35/50/75/80/105/135/200 (単位は遺憾ながらmm)

  • 測定距離:
       ストロボ発光面からストロボメーターまで2m

測定は以下の図の状態で、ストロボの照射面から約2mの所にストロボメーターを置いて実施した。

試験環境

2) 実験結果

各照射角ごとにストロボメーターで測定した明るさをEv値に換算した。(3回の平均値)

上記のグラフには、明るさの測定結果と、それぞれの照射角ごとの公称ガイドナンバーをプロットしている。
結果を見るかぎり、照射角を変えてもソフトボックスを取り付けた状態での明るさはほとんど変化しない (Ev=約13.5前後)、と言える。
なお、Ev=13.5とは、薄曇りぐらいの日中の明るさである。ポートレート撮影では十分な明るさが出せていると言える。

4.実験結果からの結論

実際にソフトボックスにストロボを付ける場合は、照射角24mm~35mm程度が実用としては良いと考える。

5.考察:なぜこのような結果になったのかを考える

ソフトボックスはディフューザーシートが光り、大きな光源として被写体を照らす。
そしてソフトボックスの内側面に反射材が貼り付けられているため、ストロボからの照射角が広角の場合は広がった光も全て内側面で反射して、ディフューザーシートを光らせ、被写体に届くことになると考えられる。

広角照射の場合のソフトボックス内の光の反射

一方、照射角が狭角の場合は、ストロボから発光したほとんどの光が直接ディフューザーシートの一部に届く。だが、ディフューザーシートの内面で反射し、ソフトボックス内部で反射を繰り返した光が、最終的にディフューザーシート全面を光らせる、と推測される。(下図参照)

狭角照射の場合のソフトボックス内の光の反射

つまり、広角照射の場合も、狭角照射の場合も、ストロボから出た光は漏れなくディフューザーシートを光らせ、被写体に届く。
実験時にディフューザーシートの光る状態を撮影したところ、広角照射の場合も、狭角照射の場合も、ディフューザーシート全体が光っている状態が観測されていることも、この推測を裏付けている。

RA-D55 照射角24mm


RA-D55 照射角200mm

ストロボの出力エネルギー全部で被写体を照らすため、照射角度によらず被写体の明るさはほとんど同じとなると考えられる。
では、なぜ4項で24~35mmが良いと結論づけたのか?
狭角照射時のディフューザーシートでの内面反射は効率が悪いと考えるからだ。
24~35mm程度の照射角であれば、ソフトボックス内部でまんべんなく反射すると考えられる。(詳細は割愛)

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2023/08/21 新規公開