見出し画像

【悪夢】死者を運ぶ列車

これは私の母から聞いた気味の悪い悪夢の話。

ある日のことだった。
母から嫌な悪夢を見てしまったと言われた。
普段はあまり夢を見ない、見ていたとしてもほとんど覚えていない母にしては珍しいと思ったのだが、話が気になるのではやく話して欲しいとお願いする。

母はこう切り出してきた。

気が付いた時には電車に乗っていた。
たぶん夢の中では京都に居たかもしれない。
何となく京都だと感じたからだ。

電車の中にはそれなりに乗客は居たが、何故か音が一切聞こえてこなかった。
ガタンゴトンという電車の走る音も乗客の話声も何もなかった。

妙だ、何かがおかしい。

不気味なくらい静まり返った車内と無表情の乗客の姿に母は少し寒気がしたという。

青白くて虚ろな目をした人々を見て何となく嫌な予感がしたそうだ。
あの人達はもしかしたら・・・いや、まさか。

電車はひたすら前に進んでいるのだが、駅になかなかたどり着かない。
一体どこに向かって走っているんだろう。
外の景色は・・・あまり覚えていないそうだが、おそらくはよくある普通の風景なのだろう。

もし、外の景色が異常だとしたら、目覚めた後も記憶に残っているはずだ。

車内の異様な雰囲気に母は一言も発することが出来なかった。
悟られてはいけない、私は彼らと同じように振舞わなければならない。
もし、自分だけが別の存在だと知られてしまったら・・・。

おそらくは連れていかれるだろう。

早くどこかに止まって欲しい、そう願っていた。
無情なことに電車は止まることもなく、乗客の生気も失われたままだ。

はやくはやくはやくはやく!

母の精神状態はぎりぎりだった。
もうダメかもしれない・・・。
そう思った瞬間に目が覚めたそうだ。

目覚めて真っ先に感じたのは、あの電車はあの世行きのものであること。
乗客は死者の魂であること。
もし、自分ひとりが生きている人間だとバレたら何をされるか分からなかったこと。

なぜ、あの電車に乗せられていたのかはよく分からないそうだ。
気付いた時には車内に居たのだから。

どういう理由で駅に向かい、何を思って電車を待ち、どんな気持ちでホームにやってきた列車に乗ったのかがいまひとつ掴めないのだという。


母「あの夢だけは今でもよく覚えている」

私「なんで乗っていた人が死んでいる人って分かったの?」

母「何となくそう感じたとしか言えない」

母「とにかく、乗客の様子がおかしかったのは覚えている」

私「姿形は普通の人だったの?」

母「うん、見た目は生きている人と全く同じだった」

母「だから最初は普通の乗客だと思っていたが、途中で違和感を感じて気付いた」

私「なんで乗ったのか思い出せないの?」

母「いつの間にか乗っていたからなぁ」


以上が母の見た嫌な悪夢の話である。
乗車駅が一体どこにあり、終着駅が本当にあの世であるのか気になるところだ・・・。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?