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びっくりした湯

世の中にはいまだ私の知らぬ温泉があるのであろう。そんなことを書いた数日後に私はとんでもない温泉に出会ってしまった。

何か考えたかわからないパートナーの「日本海が見たいよね」という発言により、宮城滞在中に奥羽山脈を抜けて山形県に朝早くから向かった。一般道で峠を抜けるのでなければ高速はSAがほぼ存在しないことを除けば非常に快適である。昔は歩いて越境したであろう山々を遠目に見つつ、滑らかに車は走っていく。

海をちらとみたあと、なんでもないただのど田舎空港が好きな私とパートナーは庄内空港へ向かい、土産を買ったり缶バッジガチャを回したりして大いに楽しんだのだが、30分もたたぬうちに見終わってしまい、「温泉行かね?」「今探してるわ」という会話をすることとなった。

こんな到着口の前で温泉いかね?と会話する二人。
実にシュールな図である。

それにしても暑い。山を越えて山形の方が暑いだなんて信じられない。
桃が取れるらしいが、そりゃそうだろう。岡山並みの暑さである。
風があるだけマシだと思いながら「ほい、ついたよー」とパートナーに言われ降りれば「ん?道の駅??」みたいな場所である。どうやら市の施設らしい。
中に入れば昭和の香り、いきなり渋い土産屋がサイドにあったりしていい感じである。これは期待できそうだと券売機で入浴券を買い、店員に渡したら早くも何をいっているのかわからない。舐めてた、ここは山形県。

まあいいや、目的は温泉だと脱衣所に入る。ガラリと脱衣所から浴室へのドアを開けた瞬間嗅いだこともない鼻をつく匂いが私の脳天に走った。
な、なんだ?!
怯みながら湯気が立つ浴槽へ目をむける。
奥の方に真っ黒い小さな池みたいな浴槽があり匂いの元はそこかららしい。
禍々しいという表現がまさに似合う温泉である。
先に入っている人は側から見ると地獄の湯に入れられている地獄絵図そのそのであり、そもそも強烈な匂いは体が入るのを拒否する
しかしここまできておいて、こんなネタになりそうな温泉に入らない手はない。なにせ私は遠刈田温泉のあつ湯に3度通った猛者である。
ええい、ままよ!

体を洗い、そっと足をつける。
お湯自体は熱くなさそうだ。
しかしこの温泉が本性を表すのはここからであった。
全身をつけた瞬間、体の細胞という細胞が拒絶反応を示し、「これはまずい!これは本当にまずい!!」とザワザワし始めたのである。
注意書きに「5分以上浸かるべからず」とあるが、5分なんてとんでもない。
1分も経たずに私は飛び出した。

椅子を並べただけのマイナスイオンルームという名のなんもない空間でクールダウンしつつ、深呼吸する。おちつけ、ただの黒湯だ。こんな色の風呂は初めてじゃない………初めてじゃいボケエエエ!!!なんだ、あの温泉は!?只事じゃない。しかし1分も浸かれないとは情けない。再度チャレンジである。普通の透明な湯に浸かった後、再度真っ黒い禍々しい湯に浸かる。うわーっ!やっぱりだめだあ!!匂いに耐えられない!!

シャワーで流して翌日から出る。
ちなみに地元の人たちが浴室で話していたが北海道というワード以外何を言っているのかまったく聞き取れなかった。
ロビーで合流したパートナーと「なあ、入った?」「入った、入った。ありゃやばいね。3分も浸かれなかったわ。」「うわー、負けたー!こっちは1.5分」とアホな会話を交わし、ジュースを飲んで帰路についた。

帰宅してからGoogleレビューをみる。「最高です」「道の駅の隣にあって便利」ほんとかよ、あっしは今日が命日になるかと思ったよと思いながら、匂いのもとはヨウ素であることがわかった。やっぱり毒を持って毒を制すタイプの湯じゃん!!!

もう温泉はこりごりだわ。
ため息つきつつ、三日も経てばまた温泉にいきたくなるのだから私の体は随分なご老体である。宮田珠紀氏が『四次元温泉紀』で温泉なんぞ若い人が行くところじゃない、スポーツしろ!スポーツ!と書いてあったが、スポーツしてても行きたくなる私は変態ということであろう。さてさて、次はどんな湯に巡り会えることやら。
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記事中photo by ブルーサイレンス

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