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亡き父が教えてくれたワンコの危機

 私の家のワンコ(♂)は、不甲斐ない飼い主のせいもあって、5歳ぐらいのときからずっと慢性膵炎を患っていました。症状こそなかったものの、毎年の検査ではいつもリパーゼの数値が高く、食事はいつも低脂肪(粗脂肪5%)、おやつもすべて低脂肪(粗脂肪2%前後)。けれども、とても元気でやんちゃで、それほど心配もしていませんでした。

 父が病気で亡くなった後の初めての父の誕生日。家族みんなでお墓参りに行くため、父も可愛がっていたワンコを連れて、前日から実家に泊まっていたときのこと。

 みんなが寝静まってシーンとした家の中、どういうわけか不安そうにキュンキュン泣くワンコの相手をしつつ、新しい日付に切り替わろうとする時計を見ながら「ああ、父の誕生日が来るなぁ。」と思っていたら…。

 突然ワンコが吐き始めました。身体を大きく上下しながら何度も何度も吐いて、口からよだれを滴しながら戸惑ったように私を見つめ、また吐き始める。胃の中が空っぽになっても、胃液を吐き続ける。それが止むと、横向きになって荒い息を繰り返す。普通ではない…。私も半ばパニックになりました。「なんでこの子は言葉が話せないんだろう。話せたら良いのに。」と、このときほど切実に思ったことはありません。スマホで実家の近くの動物救急医療センターを探していたら、騒ぎを聞きつけた家族も起きてきました。やがてワンコの様子が落ち着き、表情も普通に戻ったので、ひとまず様子を見て、翌日の朝イチで病院に行くことにしました。

 翌朝、私とワンコは朝から病院で順番を待ち、他の家族は予定通りにお墓参りへ。予約がフルに埋まっていたため、診察して貰えたのは朝11時を過ぎた頃でした。長い待ち時間の間、何度も苦しそうに身体を伸ばすワンコの背中をさすりながら、「やっぱり夜のうちに動物救急医療センターに行くべきだったか?」と何度も後悔を繰り返し、ようやく待ちに待った診察。状況を説明すると、すぐにレントゲンとエコー検査。そして、「一刻も早く、かかりつけの病院へ行くように。」と指示されました。

 かかりつけの病院で告げられた病名は「胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)」。肝臓と膵臓の間にある胆嚢の中がゼリー状になって胆管が詰まり、胆管から小腸に濃縮された消化液が流れなくなってしまう病気です。もしも破裂したら、濃い消化液が周囲の臓器を溶かしてしまい、死に至るのだそうです。

 かかりつけ医に勧められて、胆嚢を摘出することになりました。自宅から離れた場所にある動物救急医療センターで入院と手術。ワンコはもう体調が回復していて元気いっぱいで、私と一緒に帰る気満々な様子でしたが、もしものことだってあるのだと思うと不安で、後ろ髪を引かれる思いで医療センターを後にしました。

 そして手術。お腹を大きく切り開いて胆嚢を取り出す手術です。胆嚢が炎症のせいで肝臓や膵臓と癒着していると、なかなか大変なのだとか。でも無事に成功! そして、術後は、あんなに高かったリパーゼの数値も平常に戻り(つまり、慢性膵炎も治った)、心底ホッとしました。

 後から聞いた話では、無愛想なうちのワンコは、先生や看護師さん達にめいっぱい愛想を振り撒いて可愛がられ、出されたご飯はササミ以外見向きもしないワガママっぷりを発揮していたようです。

退院したてのワンコ

 たくさんの方々にお世話になりました。実家の近くの病院の先生、かかりつけの先生、救急医療センターの先生や看護師さん達、何度も仕事中の私用外出を許可してくれた上司や同僚、そして、家族。
 特に父は…。きっと父がワンコの危機を教えてくれたのだと思います。父がこの子を守ってくれた。目の前からいなくなってしまっても、こうやって見守っていてくれる。父には本当に感謝です。

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