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主役の座

幸せだった幼い頃の日々。

たくさんの幸せを記録した写真。

その中の数枚。

2歳のわたしは母と祖父に、片方ずつの手を繋がれて、下を向いて歩いている。

その表情は不貞腐れ、憂鬱な顔。

心配そうにわたしの顔を覗き込む、母と祖父。


その日は、生まれたばかりの弟のお宮参りだった。

綺麗な服を着せてもらったわたしは、参道を歩いていた。


この日の写真に残るわたしの表情は、全て、怒っているような、怖い顔ばかりだ。

もう何度も、母から理由は聞いた。

この日の主役は、弟。

それまで、ずっと家族の中で主役だったわたしは、突如現れた弟に、主役の座を奪われたのだ。

そして、その日は1日中不貞腐れ、母に弟を決して抱かせなかったらしい。


世間ではよくある話だ。

弟や妹が生まれた途端、しばらく、上の子が赤ちゃん返りをするという話も聞く。

我が子にも確かにあった。


だから、へー、そうだったんだと、その日の記憶など全くない、成長したわたしは、何度その写真を目にしても、何の感情も湧かなかった。


しかし、大人になったわたしが、自分と深く向き合う時、

いつまで経っても手放せないでいる、わたしを苦しめるこの感情は何?と自分に問うたび、

全て、これらの写真に、その答えがあるんじゃないかという思いが、少しずつ大きくなっていった。


2歳のわたしと、深く深く向き合うときが近づいていた。




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