底の知れない物語-原作『風の谷のナウシカ』
何度読んでも読み終えた気のしない物語、というものがあるけれど、『風の谷のナウシカ』はわたしにとって、まさにそういう物語だ。
映画版の同作はご覧になったかたが多いと思うけれど、原作は、映画版とはまるで違う。物語の背景も奥行きも、ストーリーさえも。
たとえば巨神兵ひとつとっても、その存在の意味深さがまるで違って、初めて原作を読んだ時には仰天した。
なにしろ、子どもの頃からDNAに刻まれてしまうのではないかと思うほど何度も観てきた映画版『風の谷のナウシカ』では、巨神兵は「意思を持たぬ恐ろしい兵器」としてしか描かれていないのだから。
その認識がひっくり返されたときの驚きと感動といったら!
原作漫画の物語世界は、とにかく深くて広大だ。
その深さに、何度読んでもわたしは毎回あっぷあっぷしてしまう。
それはちょうど、海の一番底のほうにわたしの見たいものがあるのに、自分の泳力が足りなくてそこまで潜っていけないような感覚に似ている。
潜るたび、底に辿り着く前に息が切れて、水面に上がっていかざるを得なくなる。
ああもうすこしで見えるのに、と思いながら、これ以上見ることは今の自分には無理なのだと、力のなさを思い知る。
それでも懲りることなく何度でも物語世界に潜ってみたくなるのは、作品の持つ力がとても強いからに他ならないんだろう。
作品のもつ底知れなさ。
原作『風の谷のナウシカ』には、間違いなくそれがある。
(もちろん、すっきりと楽しめる映画版も、その音楽と共に文句のつけようのない素晴らしい作品なのだけれど。)
哲学的な面白さに加え、エンタメ作品としても超一級の、読み応えたっぷりの漫画。
秋の夜長の選択肢のひとつに、ぜひ。
*サムネ画像は、ジブリ公式の画像提供サイトからお借りしました。