見出し画像

【小沢健二】いまはあれから30年後の未来

2024年8月31日。日本武道館はお祭り、もしくは集会だった。小沢健二がアルバム「LIFE」を発売したのは30年前のこの日、1994年8月31日。94年といえば経済指標的にはバブル経済の崩壊から4年が過ぎようというところ。でも世の中は9月の海水温のように夏の、つまり祭りのホットな空気感をとどめていて、それは翌95年までは続く。そんな熱に浮かされたような余韻の中、行く夏を惜しむような、なんともエモいタイミングでオザケンのソロ2作目は発売された。
私が彼のライヴに臨場したのはこのLIFEのリリースツアーではなく、たぶん翌年のVILLAGEツアーだったはず。渋谷公会堂(2024/09/15追記、いまVILLAGEのVHS(まだ普通に見れる!)を見ながら気になって調べたら94年の秋だった模様。つまりLIFEリリースツアー。記憶違いでした)。当時付き合っていたМちゃんと観に行き、会場に財布を落として帰ってきた。盛り上がったというか、浮かれてたんだろう。ちなみにМちゃんは当時東芝EMIの社員で、だから我が家に今でもあるLIFEのCDは見本盤のステッカーが貼ってある。
小沢健二、この頃は「仔猫ちゃん」発言もあったりして時代の寵児だった。アーティストとしてという側面に加え、アイドル的、お茶の間的ワイドショー的な盛り上がりの只中で真剣に遊んでいたように思う。そうでもしなきゃあっという間に消費されて飽きられて、という展開は一般人にだって見通せる。実際、LIFE後のオザケンは世間的に言えば迷走。珍奇な噂話も跋扈して、数年の後彼はひょいとニューヨークに飛んでしまう。ニューヨーク録音のアルバムも買ったけど、それほど聴かなかったまま円盤は今も棚差しで家にある。
でもLIFEは残った。いま聴くと曲数は少ないが、その全てがなんというか天才の所業としか言いようのない完全な曲たち。てらいのないアレンジは少し当時の浮かれた、そしてその後の30年間に及ぶ薄暗く不景気な社会不安を予期しようともしない弾け方で戸惑う部分もあるとはいえ、そこに乗っかる詩の数々は隅から隅まである予感に満ちていて、それはいうなれば喪失の予感だ。LIFEはまさに、ポップを被せて語られる予言の書のような1枚で、年ふるほとにその祈りのような、肯定したい、という強い意思がクリアに浮かび上がる。
完全再現と銘打たれた今回の武道館、後半に演奏されたLIFEの曲たちは、収録順とは逆、アナログで言うならB面最後から遡る形で演奏された。途中彼は「今年出たアルバムだったら2075年がいまこの場だ」というようなことをなんどか話した。30年後の未来が今。いま演奏されることで過ぎた30年を逆ネジで巻き戻していくような感覚。逆順での演奏にはそんな意図もあったのかもしれない。「愛し愛されて生きるのさ」が終わり、客電がつき、私たちはみな生活に戻った。でもそれは2024年の日常であると同時に、1994年の日常の空気感を掴み直していなかったか。夏の終わりのようなこの国で、来たるべき寒さを思わせるこの世の中で、でもだいじょうぶ、まだまだやれる。完全にはしゃいで、闇を蹴散らしちまえ。
2024/09/06

セットリスト
1:台所は毎日の巡礼
2:流れ星ビバップ
3:フクロウの声が聞こえる
4:強い気持ち・強い愛
5:サマージャム’95
6:天使たちのシーン
7:旅人たち
8:大人になれば
9:台所は毎日の巡礼
10:ぶぎ・ばく・べいびー
11:彗星
12:流動体について
13:いちょう並木のセレナーデ(reprise)
14:おやすみなさい、仔猫ちゃん!
15:ぼくらが旅に出る理由
16:今夜はブギーバック(nice vocal)
17:ドアをノックするのは誰だ?
18:いちょう並木のセレナーデ
19:東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー
20:ラブリー
21:愛し愛されて生きるのさ

ちなみに5月にグランキューブ大阪で聴いたライブはこんな調子だった。笛吹いた。楽しかった。

小沢健二 ‘24ツアー Monochromatique モノクロマティック

1:フクロウの声が聞こえる
2:天使たちのシーン
3:ラブリー
4:さよならなんて云えないよ
5:運命、というかUFOに(ドゥイ、ドゥイ)
6:台所は毎日の巡礼(新曲)
7:いちごが染まる
8:River Suite 川の組曲 アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)/いちょう並木のセレナーデ
9:彼方からの手紙
10:魔法がかかる夜、大阪にいる(新曲)
11:Noize
12:ある光
13:輝夜神楽(巨大な哀しみの時代に)(新曲)
14:ぶぎ・ばく・べいびー
15:強い気持ち・強い愛
16:ライツカメラアクション
17:今夜はブギー・バック
18:台所は毎日の巡礼
アンコール
19:彗星
20:流動体について
21:メドレー
22:ぶぎ・ばく・べいびー
(5月9日のNHKホール公演のセトリを拝借。だから大阪とはちょっと違うかもしれない。台所の曲が新鮮でした)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?