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しゃんとしている(斉藤志歩『水と茶』感想)

私の句友であり先輩であり尊敬するお姉様である志歩さんの待望の第一句集。「待望の」というのは商売文句のほうではなく、本当にその通りだと思っています。志歩さんへの私信も兼ねて。

再会や着ぶくれの背を打てば音
コート置けるよこつちの空いてゐる席に
春風や壁にパンダの相関図
留守番はたのし雷注意報
先に起きて枝豆の殻捨てておく

斉藤志歩「水と茶」

志歩さんは普段あまり力んだ句を作っているイメージが無いし、人事系の句が上手いので、良い意味でお手軽に読める印象を持っている俳人です。でも句の中に登場している人たちを想像すると、軽さの印象ほどテキトーな人は出てこなくて、みんなすごくしゃんとしている。
再会したときに「久しぶりじゃーん」と言ってバシバシする側の人だったり、空いている席にコートを置いてあげる気遣いをできる側の人だったり、相関図はちゃんと全部見るマメさもあって、留守番でるんるんしていても雷対策はしっかりしている人なのが、とても志歩さんらしいと思います。枝豆の殻まで捨ててくれるのは周囲を甘やかしすぎだと思いますが……。
もちろんご本人もすごくしゃんとした人だからこそ、この素材や述べ方の軽みとのバランスが取れているように感じます。

ヘッドライトに若き狸が振り返る
山茶花やウィンカー戻る音軽し

斉藤志歩「水と茶」

ところで、これは完全に偏見だけれど、俳人ってあまり車を運転しているイメージが無い気する(しません?)。というのも運転中の景を詠んだ俳句をあまり見かけないし、俳句を作る思考のスピードに比べて、自動車は速すぎるのかもしれません。
そんな中、きちんとその一瞬を捉えて俳句にする俊敏さも兼ね備えている俳人。ウィンカーの軽さって、すごく冬っぽいと思います。
狸については、この子が事故に遭わなかったか心配ですね。狸の死因の中でもロードキル(轢死)の割合は非常に高いそうです。野生動物に自動車などが近づいたときの反応には「無反応型」「立ち止まり型」「駆け抜け型」「忌避型」の4タイプに分けられますが、狸は「立ち止まり型」に分類され(Jacobson et al., 2016)、事故に遭う確率が一番高い生き物です。非常に狸らしい句なのですが、運転する方は気をつけてくださいね。

夜の雲に色のありけり冬田道
足湯出てブーツに戻る足二本
ストーブにあたるからだのうらおもて

斉藤志歩「水と茶」

一方で志歩さんはこういうかっこいい俳句も作れる。夜の雲の句は、同じようなことを自分も思ったことがあるだけに、やられたなあ~と思ってしまった句でした。足湯の句やストーブの句のように、自我をすこし達観しているタイプの句も多く、多角的に句を繰り出してきて読者を飽きさせない句集です。

これからも志歩さんと句座を共にしてゆけることが嬉しい。

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