見出し画像

壺屋、やちむん【2021/06/25】

中城からのバスはおよそ一時間半。左手に海、右手に山を望みながら、小さな町から町をわたってゆくと、不意に都市部に入る。
姫の名前を冠したバス停に止まると、追い越した乗用車が斜め前で停車し、その後ろのタクシーがクラクションを鳴らして急かしている。南国の人間もせっかちなものだ。

那覇についたことに気づくと同時にバスの窓に雨が降り始めた。
後部ガラスに叩きつけるような音がしたかと思うと突然のスコール。車内の人々もわずかに無言ではっとしている。
降りようとしているバス停まで三駅。
早く止まないかと祈る。

結局、壺屋のバス停についたときにはまだどしゃ降りは引き続いていた。
意外と繁盛していそうなスナックのビルの裏へ小走りで駆け込むと、最も老舗の窯元のひとつ仁王窯のお店がある。
店先には老夫婦が雨宿りをしていたので、私もそこに加わる。

「急に降ってきましたねぇ」
などと話していると、店の中から店主が
「雨宿りするならもっと中でゆっくりしていきなさいよ~」
と声をかけてくれる。店内には比較的伝統柄のやちむんが多くならぶが、窓際にある金城次郎作の作品はすこし違って目をひいた。

「どんなのが好きなの?」
と言うので窓際の蓋付き小鉢を指差すと、
「目が高いねぇ」
とにこにこしている。私は喋らなければ沖縄人と間違えるような顔をしているらしい。
喋らなければイケメンなのにねぇ、みたいなフレーズがあるので褒められているのかよくわからない気持ちになったが、その後近くの美味しいランチを訪ねると親切に教えてくれたのでたぶん好感は持ってくれたのだろう。

その窯元では近隣住民からの苦情や環境問題から、専ら瓦斯窯にかわってしまったこと。
より自由な陶芸をしたい人は別の土地へ移ってしまったこと。
由緒ある陶工たちは土地を守ることも大切であって、よくも悪くもその場所に縛られて伝統を守っていること。
そんな陶工たちの事情を聞いているうちに、雨は止んだ。
入り口の老夫婦もいなくなっていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?