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公園【2019/11/30】
もう11月も終わってしまった。
人との世間話の中で十中八九、もう今年も終わりだねという話になる。皆がどれくらいそれを深く感じているのかは甚だ疑問だけれど。
僕はそうでもない。
ただ、時期が時期ということもあり、インフルエンザの予防接種を受けてきた。注射をするだけなので、別に掛かり付けの病院にする必要もなく、比較的空いている診療所に向かった。
土曜日ということもありそれなりに人はいたが、おそらく全員が予防接種の人で、ほぼ待つこともなく済ますことができた。
僕も前に注射をうけた五歳くらいの女の子は、待合室にも響き渡る大声で泣き叫んでいて、全力の拒絶をしていた。しかし、診察室を出てくると、さも何事もなかったかのように、つんとした顔でつかつかと歩く。この年にして女性なのだなぁとふと感じたものだ。
この辺りは車では時折通ることがあるが、今日はすこし距離があるが徒歩で向かった。
それなりに馴染みのある土地のはずだったが、案外に見慣れぬ。新しいコンテナ収納スペース、非常に手入れの行き届いた豪邸の庭、道端に放置されたサッカーボール。どれも、生活感がありながらも、僕の生活からは遠いところにある物な気がした。
住宅街の季感は案外希薄だ。未だにセイタカアワダチソウが繁っていたり、かたや落ち葉を集める中学生がいる。女子三人に囲まれた男子一人はダルそうにしていた。
小さな公園にいるおばあさんと、その孫らしき娘は、何もない公園を走り回っている。女の子にとって、その時の世界はこの公園の広場がすべてだ。かつて僕もこの公園にいたことがある。どんぐりを拾ったことを覚えている。くぬぎだった。
公園を区切る微かな土手のような高まりが、防塁であり、女の子にとって、世界の果てだ。移り変わる、世界の果てだ。
僕は不覚にも、一瞬道に迷った。
あまり人には知られていないが僕は方向音痴だ。それなりに見知った土地で南北を見失う。こんなこともあるのだ。僕は、街をあまり知らない。
ただひとつ思ったことは、僕はこの空気感は好きだ。別になんの思い出はないけれど、いつか都内に住むときには感じ得ないなにががここにはある。
ぼんやりしている僕を追い越して行くウォーキングのおじいさん。ごみ棄て場で枯れ葉を集める老夫婦。民家に小さな看板だけで営業しているのかもわからない、居酒屋。
営利などとは無縁で、ただ生活のために生活がある、街。
そういえば、この中学校の友達に会いに文化祭にきたころ、知り合いの先輩に、「君みたいにエリートコースを歩んだ人は目をつけられる。気を付けた方がいいよ」と心配をしてくれた。
彼の言葉は間違っていなかったのかもしれない。でも、いまとなってはそれは杞憂でしかなかった。
僕を苦しめる人は、僕の周りにはいない。ただ、家族を除いて。