虚の林を歩く(小山玄紀『ぼうぶら』感想)
共に群青の同人である小山氏。様々な評にもあるように無季の句を前面に押し出してきた句集を出してきたのは案外だった。
それにしてもこの句集の面白みは幻想世界、とりわけ天上界を思わせる句が多いことにある。
仏教的な世界の天上界を思わせる句たちだが、リアルな(?)天上界というよりは、ミュージシャンのミュージックビデオに出てきそうな光景たちにも思える。
戒名の句はある種のリリックビデオ的な映像作品としての美しさがあるし、竹夫人の句は天上界という舞台にモノを配置していく美術作品にも見える。
つまり天上界を描くというより、天上界を創造しているに近い。
一方でこういう実景を詠んだ句もあるが、印象派的なニュアンスが強い。とりわけ光を感じさせる句が多く、ある意味では前段で触れた世界観に通底しているともいえる。
埃の句などはかなり細かいことを見ているのに、虚実の判然としないことを詠んでいる。春水の句はかなり共感できる。明るい指は、不覚にもがよい。何が不覚なのか全くわからないので。
そんなふわふわした句群の中で、こういう人間味のある句が挟まると安心する。渠も人間界の住人だったのか、と。だが季語はない。この屈折がこの句集らしさだとも思う。
ちなみに句集を戴いて最初に思ったことは「装丁がかっこいい」と「ぼうふらじゃなくてぼうぶらだったんだ」でした。たいへん失礼しました。