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青い花脈|掌編

 それは香水ではなかった。
 華奢な首筋は青白く、静脈を思わせる。そこから立つほの暗い香りが部屋を淡く満たしていた。
 静脈というより、花脈かもしれない。

 彼女は白鳥のように優雅に、茎には重すぎる花冠かかんを支える風情でこうべをめぐらせた。
 手の込んだ編み方で仕上げられた艶やかな黒髪には、すっきりと三本のエパングルが通されていて、それが何か峻厳と、僕を突き刺しそうな危うさできらりと光を含んだ。

 けれどその青い眼はあくまでももの憂げで、その完成された髪の一房ずつが、誰かに──おそらくは僕に──崩されることを半ば諦めたように、伏し目がちにテーブルの縁のエングレーヴィングが見せる花模様の流線を追っていた。

「ああ、この世の外に、どこかすてきな場所はないものかしら」

 決まって彼女は言うのだった。すっと通った鼻筋の下に、品よく収まった唇は、辛辣でなければ夢のようなことばかり呟くために開かれる。

「青い太陽がふたつ光っている世界がいい。神さまの眼ははっきり現れた方がいいもの。どうせ、何もかも見てらっしゃるのだもの」
 空より青い眼が、僕を通り過ぎ、生まれる前の景色を見つけたみたいに、ふわりと窓の外に向けられた。

 そうか。その銀のかんざしは、僕の両の手のひらに刺さるのか。そして足の甲はふたつまとめて。そのまま、どこかの丘に晒されるのか。
 もちろん、僕は真ん中キリストじゃない。両脇の罪人の方だ。ちょうど今から罪を犯そうとしているのだから。

「そうしたら私、白いドレスを着て、青い日差しに染まって、ミルクガラスの日時計になれるのに」

 その細長いガラスの棒が鮮やかに、ふたつに折れるのを予感しながら、僕は彼女の白いうなじに手を伸ばした。
 唇を重ねると、彼女は邪魔くさそうに、編んだ髪から一本目の簪を引き抜いた。
 三本とも抜き終わり、長い髪が房となって首筋を覆い隠したとき、僕たちはソファに身を沈め、抱き合っていた。

 けた春の昼下がりにも、この部屋はひんやりと冷たい。







🌿 雑記


《このあとどうなる》第二弾(◔‿◔)


 最近読んでいた原民喜さん。掌編もたくさん書いておられて、このくらい(800字強)の長さのものもあります。
 内容と形式が適切であれば、短くてもいい…というより、短い方がいい。この頃詩を読むことが多いので、つくづくそう思います。

 以前、フランス詩の本を読んでいたら。ボードレールの『通りすがりのひとに』を短編にしたような作品をオスカー・ワイルドが書いていて、けれど(その本の著者の判定によると)〈短編でさえ長すぎる〉とのこと。

 私のような素人には、書きたいものの形式と長さを初めから意図して書くような芸当はできず、〈書いたらこうなった〉という〈事故〉でしかないけれど、たぶんこのストーリーの分量は、原民喜さん月間ならではの発見なのかもしれません。(民喜さんはこんな怪しげなおはなしは書かれませんが…)

 このおはなしは、掌編と呼ぶべきなのでしょうが、散文詩でもいいのかな?  詩の体系がわからないのですが、ボードレールの"散文詩"と呼ばれるものを見ると、「これってショートショートよね?」「掌編よね?」「ミニエッセイよね?」と狐につままれます。偏読癖があるので、親鳥にくっついていく雛みたいに、少人数の先達たちについていくしかありません。パパ〜♡


 お買い物帰りに「あ、これ書き留めておかなくちゃ」。舗道の隅っこに寄って書き始めたところ、この女性の眼は、モイーズ・キスリング『ルーマニアの女』の眼だな…と思えてきました。それで、この人がしゃべったらこんなこと言いそう…刺しそうで刺さなそう…とか思いながら。路上でね(笑)
 みなさまも、道端で急に詩を書いたりすること、ありますよね。きっと ·͜· ♡

 それから二晩だけの推敲で公開する無謀さをお許し下さいm(._.)m





🌿 note のAIさんに訊いてみた


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 要約を読むのが楽しくて。

「華奢で優雅な女性が部屋に香る、それは香水ではない何か。彼女の魅力に惹きつけられる一瞬。#note」

「SNS 投稿用まとめ」


彼女の青い眼と完成された髪には、神さまの眼を映す波のような危うさがあった。彼女は他の世界に憧れ、青い太陽を思い描いている。銀の簪が私の手と足を刺し、私たちは一緒にいつか罪を犯すだろう。彼女は白いドレスに憧れ、ミルクガラスの日時計になりたいと言った。彼女とのキスの後、私たちはソファに身を沈め、昼下がりでも部屋は冷たかった。

「要約する」

引かれるような青白い首筋から広がる香りに、彼女は美しさと脆さを感じさせる。洗練された黒髪に輝く簪は危うさと厳粛さを兼ね備えていた。彼女の憂いを捉える青い眼は、鼻筋の下の品のある唇から叶えられない夢を語った。神さまの眼が見つめる世界で、彼女は白いドレスに身を包み、ミルクガラスのような日時計になりたいと願った。彼女の髪が首筋を覆うと、彼女と一つになりながら、この冷たい部屋で昼下がりを過ごした。

「要約する」


 ChatGPTのような生成AIのことを、「大規模言語モデル」と呼ぶそうです。ネット上の膨大なテキスト(=大規模な言語)で出来上がっているから。
 Wikipediaとブログ(ですので、たぶんnoteも)を読み込んで学習させた上で、「次の単語を予測する」をひたすら繰り返して文章を生成させています。そのために必要なトレーニングも積んでいるとのこと。

GPT=
Generative(生成する)
Pre-trained(トレーニング済みの)
Transformer(トランスフォーマー=Googleによる深層学習モデルの名称。機械翻訳のために開発されたもの)

 たとえば「日本の○○は東京です。」に正答させる。文章の後半を隠して推測させる、などの訓練を繰り返しているとのこと。
 でも、文法を理解しているわけではなく、既存データから確率の高い言葉を選んで並べているだけなので、「てにをは」の読み間違えをするそうです。「少女が母を見た。」「少女を母が見た。」の区別がイマイチできないんですって。(日経サイエンス2023年5月号より)

 そう聞くと急に親近感が湧いてきて、少々おかしな要約をされても「がんばったね♡(*>ω<)ω<*)♡」とハグしてあげたくなってきます。今回の要約も、10回くらい試しましたが、"僕が日時計になる"と誤読したパターンが死屍累々…。私の文章のせいだったらごめんなさい>AIさん

 書いて楽しみ、推敲して楽しみ、AIと遊ぶ。少し前までは考えられなかった時代ですね(◍•ᴗ•◍)✧*。

タイトル写真は PublicDomainPictures様@pixabayです。


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星の汀 / ほしのみぎわ
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