《シダネルとマルタン展》|短歌と展覧会感想
短歌〜シダネルに寄す
後ずさるごとくに輪から抜け出して
さざめく残照 空に見送る
シダネルの
次第に人が消えていく
画布を眺めてほころんだ午後
月明かり星明かりただ蓄えて
窓辺を明かす薔薇の離れ屋
ほの灯り漏れ出づる窓の彼方より
こころ模様はうすくれないに
解題のように〜展覧会感想
《シダネルとマルタン展》
最後の印象派-ベル・エポックの光の巨匠
久々のヒットでした。
シダネルは、ひろしま美術館に所蔵(※)があるので、名前はおなじみでしたが、マルタンは初めて知ったように思います。
(※)《離れ屋》...パンフレット右列の上から3つめ
会場に入ってすぐに、なんとも牧歌的で清純な女性の絵(※)に出会い、ブラウスとスカートの可憐さに頬が緩んで「マスクの時代でよかった〜」としみじみ思いました(笑)
(※)マルタン《野原を行く少女》(写真左下)...等身大サイズの大きな絵。背後の空間が広い、ややめずらしい構図。でも圧迫感がないところがすごい。この場合は、通り過ぎていく感覚...なのよね。なおさら儚げです。
強い同質性を感じさせるふたりでしたが、総じて言えば、彩度の好みではシダネル、明度の好みではマルタンに軍配が上がりました。
「断然マルタン」「えー私はシダネル」などという、帰り際の会話を小耳に挟むのも、愉しいものです。
月灯りのアンティミスト〜シダネル
シダネルは、アンティミスト(親密派)と呼ばれるように、身近な景色を穏やかに、情感をこめて描き出した画家でした。
月灯りと薔薇と夕暮れの画家。
初めは人の姿も描いていましたが、次第に風景画の中から、その姿が消えていきました。
けれど、食器や窓からの灯りなど、常に人の気配を感じさせる絵を描いています。
「気配で充分なのです。
そこに残されているのは、
互いへの思慕、なのですから」
...そんな声が聞こえてきそうな、穏やかさ。(勝手な妄想)
薄明かりにくるみこまれた、ひっそりとあたたかい風景。強く訴えかけるものではないけれど、それゆえに心地よい世界でした。
関連リンク
展覧会へのリンク→《シダネルとマルタン展》
《離れ屋》→ひろしま美術館所蔵作品ページ《アンリ・ル・シダネル》でご覧になれます。ご近所でよかった、と思う絵のひとつです。