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夜へ|詩

夕暮れの空と
川面にかかる
葉ずれの影を見ていたら

おかあさまがおっしゃるの

  寒いから
  もうおうちへ
  はいりましょう
  風邪を引いてはいけないから

こくんと頷いて
なんだか泣きそうになりながら
手を引かれて
暖かい
おうちに帰る


おうちのなかは暗いけれど
しずかな音楽が聞こえていて
少し甘いかおりがする

手をのばしたら
いままでふれるのがこわかった
たくさんのきれいなものがあった
外と同じように
広くて

  いいえ、ここはおうちだけれど
  おそとでもあるの
  ドアも窓も開いているわ
  大丈夫
  世界もあなたも
  なにも変わらない
  ただ
  夜になっただけよ
  豊かで深く
  余計なもののない夜に


おかあさまのこえを聞きながら
眠ろうと目をとじる
開けてもとじても
目のまえは
かわらない

おうちのなかは
それでも
不思議にここちよくて
ひそやかに
つつみこまれるようで


いままで知らなかった
さまざまなものが
ささやきかけてくる
おかえり と

このときを
待ってくれていたのだと知る

  あなたが
  いけない子だったからではないの
  どうしてだか
  それはおかあさまにも
  わからないけれど
  ただあなたは
  この新しい世界に呼ばれたの
  もしかしたら
  この世界の深さがわかる
  あなただからかもしれない
  ほかにも
  たくさんいるわ
  おかあさまの
  大事な
  たいせつな
  子どもたちが...


こうして
おかあさまの
こもりうたを
ずっときいていられるのなら
それもいい

ひとばんねむって
あすには
ドアのむこう

このやさしく
さらさらと
やわらかく
おわることを
もうやめた夜を
あちらこちら
ふれてあるいてみよう

これからは
もう
めをあけていようと
しなくてもいいのね
わたし
みたくないものも
たくさんあったの


おかあさまの
すこしつめたくて
あたたかい
いいかおりのするてが
わたしのまぶたにふれた


  おやすみなさい
  とこしえに続く
  佳き 夜を...



* * * 
この詩については
またいつか。



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#夜
#目をとじて

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