バカにされる英文This is a pen. は案外秀逸だった。「見りゃわかるだろ」はちょっと違う。
教科書Jack and Betty ですが、英語に初めて触れる人に優しくできています。
「This is a pen」
「アホか。みればわかるのに。なんじゃこのシュールな英文は。笑」
そう批判されているこの英文。でもパターンプラクティスの例としては初心者に大変やさしいものです。教科書 Jack and Bettyの内容を少し見てみましょう。
この文はこう続いています。
This is a pen.
This is my pen.
This is a book.
This is my book.
そう、所有格のレッスンだったのです。
1語だけ変えて、a→myという操作をさせるもの。
Jack and Betty ではスモールステップを設定し、無理なく言えることを増やしています。一方、今の小学校と中学校の教科書は、「自然なやりとり」を重視して載せています。ありそうなシチュエーションが大事というわけです。
これはこれで否定はしませんが、少し長めな会話文があり、自然なやりとりが重視されているあまり、「英文の操作に焦点をあてる意識を持つ」部分を教科書がマインドとして失っています。それはパターンプラクティスと呼ばれるものです。
パターンプラクティスとは、まず口頭練習で型を身につけさせます。This is a book.→ This is my book. など、1語変えることで、無理なくThis is…の型を反復させるとともに、新出のポイントを1つ導入します。この場合は、所有格ですね。型とともに文法を反復する中で理解させ、言語操作させよう とするものです。
「自然な会話文」を載せるのもいいのですが、型を踏まえて、その一部分を少しずつ変える英文を練習させることで、無理なく「英文の持つシステム」を段階的に、スモールステップで学ばせる、言えるようにさせるのだという気合が昔の教科書から感じられます。
当然This is a pen.に始まる所有格の学習のその先には、
Hey! This is [my bag]! おい、これ俺のバッグだぞ!
This is [mine].
This is [yours]. とか、
This is my wife. うちの奥さんです。
につながることは想像にかたくありません。
似たような系列の教材には、
・Basic English (Ogden)
・英語のハノン(横山雅彦・中村佐知子)
・瞬間英作文(森沢洋介) などがあると考えます。
では現在の小学校、中学校の教科書はどうなっているか。
成績上位の児童、生徒は問題がありません。しかし成績中位以下の児童・生徒に異変が起こっています。英語嫌いが大変増えているのです。その原因の一つは文法なのです。
今の教科書は「自然なやりとり」の回数を増やすことで文法や語彙が「身に付くだろう。という思想のもと作られていますが、ここに罠があります。圧倒的に、言語操作の練習量が足りないのです。いやいや「やりとりの回数が増えれば自然な英語が身につくだろう」と普通思いますよね。でも考えてみれば当たり前で、先生が「自然な状況」を設定し、最低ペアで「やりとり」をするのですが、「内容」に力点が置かれているため、「言語操作」には意識が向きづらいのです。一見練習しているように見えて、大昔のThis is a pen. のJack and Bettyの教科書より英文操作が身につかないことが教室で起こっている可能性があります。
話したり聞いたりするのが今の生徒は得意です。でも、正確さには全く欠けるし、スピードも遅い。一方、パターンプラクティスは自分一人でどれだけでも練習ができますし、操作に慣れれば慣れるほどスピードがアップします。
自然な状態でのやりとりが不要とは言いません。必要なものです。ですが、本来、内容重視のやりとりの前に、言語操作を無意識にできるようにするパターンプラクティスが必要だったわけです。言語操作が無意識にできる人はようやく話の内容に意識を向けられます。(逆もあり。うまくやりとりができない経験をさせてからパターンプラクティスという練習の必然性を作っている先生もいます)
文部科学省の指導要領に合わないものは、排除されます。
残念ながらパターンプラクティスも同じ。
現状、中位以下の生徒に限って言えば、大量にこぼれ落ちる可能性があります。パターンプラクティスのスキルは、これからの英語教師には必要です。