鳥を歌う、鳥を弾く 新谷祥子 Marimba Theater 2015 キッド・アイラック・アート・ホール 2015.11.06.
新谷さんのライヴから僕が感じることのひとつに、プログレッシヴ・ロック的な快感があります。例えば、仲井戸麗市とのインスト・セッションからは、無機質で乾いた音…の、イエス的なそれを。そして金子飛鳥とは、即興的演奏ながらもキメがビシバシ決まる、計算されたインプロ…のようなキング・クリムゾン的なそれを。こうした英国のプログレ感は個人的なものですが、実際に感じます。そして今回の君塚仁子さんとの共演からも、プログレ的な快感がありました。思い浮かべたのはエマーソン・レイク&パーマーです。
新谷さんと君塚さんのセッションからは映像が浮かびました。ただし、決してハッキリとした図や景色ではありません。しかも、それらが何の映像や絵なのかもわかりません。さらに、花火のように一瞬に浮かんで消えるものばかりでしたが、間違いなく音から何かの絵が見え、映像を感じました。思えば、中学生の頃に初めて聴いたEL&Pの『展覧会の絵』は、そのコンセプトからも、曲を聴きながら絵を思い浮かべられる独特のものでした。何の知識がなくても、聴いていて実に気持ちがいいものでした。こうしたことからEL&Pを連想したわけですが、もちろんプログレ的なことが素敵なのではありません。何と言ってもマリンバ・シアターです。音から映像が浮かんだことが素敵なのです。
それにしてもオカリナをかっこいいと思ったのは初めてです。特に「気ままな悪魔」という曲では、その高音を効かせた演奏が、ビートルズの「Penny Lane」に入っているピッコロ・トランペットを連想させます。この日のライヴのハイライトだったと思います。
オカリナもマリンバも優しく柔らかい音ですが、ふたつが組み合わさると、その優しさと柔らかさが倍増し、独特の鋭さを持って聴こえるのです。もちろん楽器ではなく、新谷さんと君塚さんだからこその音なのでしょう。とにかくどう形容していいのかわからないのですが、心地よく耳に突き刺さる音でした。もしかしたら最強の組み合わせかもしれない…とも感じます。
さて、この日は " 鳥を歌う、鳥を弾く " というテーマでのライヴでした。オリジナルとカヴァーを含めた鳥に因んだ曲は、演奏前に新谷さんが解説をしてくれるので、その世界にすんなりと入れます。
印象的な演奏ばかりでしたが、ソロ・パートでは「かもめはかもめ」かな。中島みゆきの世界も新谷さんには合うということがわかりました。次は「この空を飛べたら」をお願いしたいと思います。
共演パートでは「紅カラス」。オリジナルはチャボのギターが素晴らしい効果をあげているのですが、君塚さんによる味付けは、違う魅力を引き出していました。新谷さんの歌ものを、この二人のセッションでもっと聴きたいです。「土」「冬の線路」あたりがいいかなぁ。
マリンバ・シアターのタイトルからすれば、今回、僕の中に映像が浮かんだことは、まさにシアターと言えるわけで、そのテーマ通りの内容のひとつだったことではあります。しかし、新谷さんのシアターはこの程度のものではないでしょう。音楽…メロディと歌詞。もちろんオリジナルとカヴァー。そして言葉と詩。新谷さんがスクリーンに描きたいもの、描かれるもの、そして描いてほしいものを含めて、僕も一緒に観ていきたいと思います。<2015-11-10 記>
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