ROSEWOOD SINGER / 新谷祥子 -2011-
たとえば人から薦められたものではなく、本やネットで偶然に知ったものや調べたものではなく、単に興味を持っている程度のバンドでもなく、好きだよ程度のアーティストというものでもなく、自分が本当に心から待っていた人の新しい作品が届くことの嬉しさ。久しぶりにこれを味わう事ができた。しかも、そんな期待にしっかりと応えてくれた作品だったことも素晴らしい。
新谷祥子、マリンバ弾き語りによるセカンド・アルバムが発表された。これだけでも僕にはじゅうぶんにグッド・ニュースなのだが、何と今回は仲井戸麗市がギターで参加しているのである。この報せを知ったときの僕の期待は、ニュアンスはかなり違うとは言え、あの泉谷しげる with LOSERのライヴ開催と、そのメンバーが発表されたときに似ている。チャボと下山淳が同じバンドでギターを弾くということを知ったときの感情。あれは本当にとんでもないものだったけれど、今回もとんでもないものであった。これまで、この2人による素晴らしい共演を観てきたこともあるから尚更だ。
彼女ならではのとても聴きやすく、良い意味で歌謡曲テイストでpopなメロディ。そして素朴で優しいマリンバ…ローズウッドの響きによる繊細で美しく切ないフレーズ。この二つが混ざり合い、マリンバ弾き語りと言う、まさに新谷祥子にしかできないであろう音楽がここにある。
1stアルバムとはずいぶん聴いた印象は違う。それはバックの音だと思う。
かなりバラエティにとんだ様々な音が聴こえてくる。ずいぶん分厚くなった印象だ。ただ、良く聴いてみると最小限の楽器ということがわかる。Xylosynthやピアノ、打楽器による味付けが絶妙なのだ。
これまでのステージで披露されていた曲もこうして作品になると、またあらためてライヴとは違った魅力が感じられて、ファンとしては嬉しい。「ブルック~女はいつも」や「とめようもない」は、ライヴでは渋めな曲という印象だったが、いやいや、これはかなりの名曲だな。
さて、仲井戸麗市が参加した4曲にふれたい。「アトムの飛んだ空」と「ピクニックボーイ」はライヴでもお馴染みのナンバー。前者はライヴのラストに演奏されたこともあるので、新谷さんも気に入っている曲だと思われる。
Xylosynthによるフレーズと音がとても印象的だ。チャボのギター・ソロは、あまり聴くことができないようなものだ。僕自身、かなりの確率でチャボのギター・プレイを聴き分けられると自負しているけれど、ここでのプレイは、言われなければチャボだとはわからないかもしれない。このように、あれだけ記名性があり、どんな場でも個性がかくれないチャボのギターだが、
見事に新谷祥子の音楽になっているのが凄い。そしてそれは素晴らしいと思った。後者はチャボとの共演でも何度か演奏されている、僕もお気に入りの曲。ギターとマリンバによるソロの会話が聴ける間奏がとても大人っぽくて(笑)素敵だ。
先日のSTB139でも披露されていた「紅カラス」がいい。ソプラノと組んでの演奏も良かったが、チャボとの共演はバッチリだろう。地味だけど流れるようなバッキング・プレイはかなりのカッコ良さ。オブリも最高だ。
そして共演曲では、何と言ってもアジア的で大きな世界を感じさせる「風よ はこべ」に尽きる。マリンバによるイントロからして圧倒的であり、そのフレーズと歌のメロディ、歌詞、すべてが感動的な名曲だ。終盤で聴けるチャボのVoiceが効果的で素晴らしい。
アルバムは「未来」、そして「新しい友だち」という曲で終わる。
君はひとりじゃない。
明日はきっと いいことあるよ。
明日がある。未来が見える。新谷祥子 『ROSEWOOD SINGER』 は傑作だと思う。
11月19日の南青山MANDALA。そして翌20日の名古屋ブルーノート。レコ発ライヴが行われるのだが、そのタイトルが「風よ はこべ」である。このことからも特別な曲なんだろうなということが想像できるが、何よりも期待されるのは、そのライヴの中身である。2ndアルバムが中心になるとは思うが、これまでの集大成的なものになることも考えられる。というか、ぜひ、新谷祥子のオリジナルを存分に聴かせて頂きたい。何なら1stと2ndから全曲でも構わない。これだけでも期待でいっぱいなのだが、ゲストにはチャボが迎えられるのである。何と嬉しいことだろうか。
新谷さんのことだ。チャボを単なるゲスト扱いで済ますということは無いだろう。2人の共演は見もの聴きものになることは間違いない。新谷祥子の音楽で仲井戸麗市のギター、ギタリスト・チャボが満喫できるわけである。チャボのファンも必見のライヴになると僕は思うよ。<2011-11-01 記>
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