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お寺でSinger Song Marimba 新谷祥子木々打ち唄うラブソング 八王子市龍見寺 2016.07.02.
昨年のちょうど一年前に続いての八王子龍見寺でのライヴ。7月になったばかりだというのに、既に真夏を思わせる日差しを浴びて館町を歩く。
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前回は雨天だった。ただ、おかげで雨音と風の音、そして鳥の鳴き声という自然のサウンドが新谷さんのマリンバに色を添えていた。それは今回も同様だった。お寺ならではの独特な音の響き。そして鳥の声や水の音など自然のSEに囲まれた雰囲気はここでしか味わえない。途中でヘリコプターの音も聞こえてきたが、それさえも演出になっていた。実際には、新谷さん自身は出音に苦労していたようだが、この場所ではバランスや大きさだけでははかれない音を聴けることが魅力だ。
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テーマはラヴ・ソング。新谷さんのオリジナル数曲と、多くのカヴァーで構成されていた。カヴァーはいつも通りに直球な選曲で、音楽好きならばすぐに反応できる。たとえばビートルズの「イエスタデイ」や中島みゆき「糸」などがそれだが、マリンバ弾き語りと言うのがミソで、こうした聴きなれた曲でも初めて触れる音になるわけだ。個人的にグッときたのは「スカボロー・フェア」。お寺という会場にマッチした、実に美しい音が鳴っていた。
オリジナルでは3rdアルバム収録の「長い旅」。CDではしっとりと歌われているのだが、ライヴではリズミカルにアレンジされたヴァージョンになっている。しかし、新谷さんはここに電車が走る音、がったんごっとん、しゅっしゅっぽっぽ…を加えるのだ。これが実に曲調にマッチする。もちろん聴く側のアタマには電車の映像が浮かぶわけで、単に観て聴くだけではない体験をすることになる。どこまで意識的なのかはわからないが、ライヴとしては素晴らしいアレンジだと思う。
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中盤で仲井戸麗市の「プレゼント」が歌われた。ラヴ、愛、LOVE…は、人と人のものだけではなく、もっと大きなものと捉えた曲…というようなニュアンスで紹介していたが、この日のテーマが、まさにそれだったと思う。
新谷さんがラヴ・ソングをテーマにしたお寺でのライヴを観た後、僕の中に残った自分にとっての愛、そしてラヴ。それは一般的な男女間の愛や恋を指すものだけではなく、ほんの小さな毎日の中での、しかし確実に存在するもっと大きなラヴである。
いや、やっぱり言い直す。ライヴ後に残ったのではないな。残してくれたのだ。新谷さんの歌とマリンバと、思いや想いが。<2016-07-03 記>